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 昔々、あるところに魔法使いのおじいさんが二人の弟子と住んでいました。







合体魔法少女

作:大原野山城守武里




 一人前の魔法使いになるには国家資格を持った魔法使いの弟子になる必要があります。そして、修業を積んで国家試験に合格すれば魔導師認定がもらえて魔法
使いとなることができます。他に専門講座などから国家試験に挑戦することもできますが、魔法使いの弟子という肩書と師匠の推薦状があるだけでかなり有利と
なります。とはいっても、受験資格は2種で18歳以上のため、奥斗英司くんと名波空子ちゃんにはまだまだ先の話です。
 それでも修業をしていますから魔法を使うことはできます。しかし、まだ未熟なため修業の時以外に魔法を使うことは禁じられています。とはいえ、やはり身
に付けた魔法は使ってみたいと思うのが人情というもの。二人は内緒で遊びや悪戯に使ったりしちゃうのです。
 ある日のこと、二人は公園に遊びに来ていました。

「ねえねえ英くん、あそこで加奈ちゃんのお姉さんにしつこく言い寄っているチャラ男いるでしょ」
「ああ、お姉さん迷惑そうだな」
「でしょ? 正義の魔法使いをめざす私たちとしたらあんなの放っておけないじゃない」
「確かに」
 二人はニターッと笑いました。

「やっちゃう?」
「やっちゃおう。俺がやるよ。マジカルラジカル天魔滅精」
 英司くんが魔法を唱えると、なんとチャラ男のズボンとパンツがずり下がってしまいました。

「馬鹿、パンツまで下げる必要ないでしょ」
「ごめん、ちょっと失敗」
「私がパンツを上げてあげるわ。マジカルマイカル天聖懲罰」
 今度は空子ちゃんが魔法を唱えました。すると、今度はチャラ男の服が全部上に脱げちゃいました。

「ちがうよ。服じゃなくてパンツを上げるんだろ」
「わかってるわよ。今度こそ……」
 空子ちゃんはもう一回魔法をかけようとしましたが、途中でやめてしまいました。

「どうしたの?」
「ねえ英くん、いまパンツを上げてあげたところであの騒ぎは収まりそうにないんじゃない?」
「確かに」
「でしょ? あまり魔力使っちゃうのももったいないし、別に放っておいてもいいんじゃない?」
「そうだな。お巡りさんも来たみたいだし、これで一件落着だね」
「だね。悪人も退治したことだしもう帰ろうよ」
「うん、あんまり遅くなると御師様に叱られちゃうからね」
 二人は公園を後にして帰ることにしました。実は二人は御師様の用事を済ませた帰りだったのです。

「何をしておったのじゃ!」
 帰ってきた二人を御師様が叱りました。

「まったく、どうせまたどこぞで悪戯をしておったんじゃろう」
「ちがいますよ。ねえ、クーちゃん」
「そうですよ、困っていた人を助けたんですから」
「人助けをしたというのか? それでもじゃ。魔法を使ったわけではあるまいな?」
 御師様の問いに二人はビクッとなりました。それで御師様にはすべてわかりました。

「馬鹿もん! あれほど儂の許しなく魔法を使ってはいかんと言っておろうが」
「「す、すみません……」」
 二人は同時に謝りました。しかし、全然反省していないのは同じような事をほぼ毎日繰り返していることからわかります。そこで、御師様は二人に罰を与える
ことにしました。

「お前たちには言ってもわからんようじゃからな。罰として物置の掃除でもしてもらおうかの」
「「ええーっ」」
 二人は不満を表しますが、御師様の一喝で黙りました

「黙らんか! よいな、儂はこれから出かけてくる。夕方には帰ってくるからそれまでに掃除をすませておくのじゃぞ」
「「はーい」」
 二人は渋々返事します。御師様は「うむ」と頷き、玄関に向かいました。その時、ふと御師様の脳裏に、二人が箒に魔法をかけて水汲みさせている光景がよぎ
りました。

「よいな、くれぐれも魔法を使うでないぞ。修業中のお前たちにはまだ魔法は危険じゃからな。では行ってくる」
 御師様は二人に念押しして外に出ました。

「「行ってらっしゃーい」」
 二人の見送りの声を背に一抹の不安を抱きつつ御師様は、帰ってきたとき家が水浸しになっていないことを祈りながらレヴェントンで出かけて行きました。

「物置の掃除かぁ。面倒だな」
「そうよね。中にある物を全部出して中を掃除して、そんで外に出したやつを中に戻すんでしょ。そんなのやってたら遊べないじゃない」
 二人はブーブー文句をたれますが、掃除をしないと御師様に怒られちゃいます。しぶしぶ、二人は掃除を始めることにしました。ところが、物置の戸を開ける
と大量の埃が二人を待ち構えていたのです。

「うわっ、なんだよこの埃」
「やっだぁ、汚い」
 汚いから掃除をするのです。二人は役割を分担することにしました。

「私がハタキで埃を落としていくから、英くんはここにある物を出していってね」
「ええーっ、ずるいよ。クーちゃんばっか楽して」
「だって、英くん男の子でしょ。男は外で、女は内で仕事をするの」
「男は外でって、ちょっと意味が違う気がするけど……」
「つべこべ言わないの。男は黙って仕事をする」
「わかったよ」
 英司くんはしぶしぶ重労働をすることにしました。

「お、重い……」
 物置の中にはいろんな物があります。当然、その中には重たい物も含まれています。

「ねぇ、クーちゃんもちょっと手伝ってよ」
「んもう、しょうがないな。ほら、一緒に持ってあげるから」
 二人は大きな箱を運ぼうとしますが、二人がかりでもちょっとしか動かせません。

「なによ、こんなの運べるわけないじゃない」
「そうだよね。中になにが入っているんだろう」
 英司くんは箱を開けてみることにしました。

「うわっ、びっしり詰まってる。重たいわけだよ。これじゃ」
「しょうがいない。面倒だけど、中にあるやつを出して箱を軽くしましょ」
 箱に入っている物を出していく二人ですが、その途中で英司くんが分厚い本を見つけました。

「ずいぶん厚いけど、何々召喚魔法事典? どれどれ」
 英司くんはペラペラとページをめくってみました。

「なにしてんの?」
 空子ちゃんも興味ぶかそうに覗き込みます。やはり、魔道を志す者として興味はあるようです。しかし、二人の目的はそれだけではないようです。

「ねぇ、こんなのどうかな? 巨人ツニート。心優しいって書いてあるからきっと掃除を手伝ってくれるよ」
「うん、いいね。早速呼びましょ」
 二人は巨人を召喚して、掃除を手伝わせる魂胆なのです。二人は外に出ました。

「えっと、呪文を唱えるんだな。行くよ。エロイムエッサイム、タッカラプト・ポッポルンガ…、ポコペンポコペンダーレガツツイタ…、ビビデバビデブー」
 英司くんが呪文を詠唱すると、すごい煙が噴き出てきました。

「やった」
 煙の中から巨人が姿を現したことに英司くんは成功したと思いました。しかし、ちょっと様子が違うようです。

「ねぇ、英くん。ツニートって単眼だった?」
「へっ?」
 英司くんはあわてて事典を確認しました。

「あーっ、キュクロプスになってる。風でページがめくれたんだ」
「どうすんのよ。キュクロプスって凶暴で有名じゃない」
 未熟な二人では凶暴な食人鬼を制御できません。

「ど、どうしよう」
「とにかく、物置に逃げましょ」
 二人は大急ぎで物置に逃げ込みました。しかし、お世辞にも頑丈とはいえない物置では巨人に壊されてしまうのは時間の問題です。巨人は物置の屋根を叩いて
壊しました。中の二人が丸見えです。

「ど、どうすんのよ。このままじゃ私たち食べられちゃうよ」
「何か考えるんだ。何かないかな」
 英司くんはキョロキョロ見回して武器になりそうな物を探しますが、巨人を倒せそうな物は何もありません。魔法で倒そうにも二人はまだ修業中です。とても、
巨人を倒せる魔法なんてできません。唯一の方法は召喚解除の魔法を唱えることですが、それが記されている事典は外に置きっぱなしです。まさに絶体絶命の大
ピンチ。その時、英司くんはあることを思い出しました。

「クーちゃん、あれやってみようよ」
「あれ?」
 空子ちゃんは首をかしげました。

「ほら、前に魔法の本に載っていた合体魔法」
「ああ、あれね。でも、合体しても勝てるのかな?」
「やってみるしかないよ。緑色で触覚がある魔法使いだって合体したら人造人間と互角に戦えるようになったじゃないか」
「一か八かね、やりましょ」
 二人は互いの両手を握りあいました。

「「せーの、ラジカルラスカル聖魔融合!」」
 眩い光が二人を包んで、二人は一つになりました。

「……」
 英司くんは自分の体をジーッと見つめていました。とはいっても、明らかに自分の体ではありません。いつもより床が遠く見えますし、服も違いますし、胸が
膨らんで見えます。どうやら、合体後の姿は大人の女性のようです。いや、まだそうとは限りません。

「ちゃんと確認しないと」
 声も違います。英司くんはスカートをめくって股間を確認しました。どうやら、ついてないようです。その時、空子ちゃんの声が頭の中に響きました。

『なにやってんのよ。英くんのえっち』
「えっ? クーちゃんどこ?」
『多分、英くんの中にいると思う。運動神経は英くんが上だから体は英くんが動かすようだけど、私はなんだろう?』
「クーちゃんは多分きっかけだよ」
 全然意味がわかりません。

『まあ、いいわ。それより合体後の私たちってどんなのか見てみたい』
「俺も見てみたい。ちょうど鏡があるから見てみよう」
 合体後の姿を鏡で確認すると、二人から驚きの声が上がりました。

「『おおっ』」
 鏡に映ったのはキレイな大人の女性でした。しかも、かなりのナイスバディです。

「すっごい、美人だな。でも、なんで女の人になってるんだろう」
『そりゃ、私が美人に決まっているからでしょ』
「でも、あんまりクーちゃんに似てない気もするけど」
『いいのよ、細かいことは。それより巨人を倒してしまいましょ』
「ああ、そうだった」
 英司くんが上を見上げると、巨人が二人が合体したことに驚いていました。

『いまのうちにやっつけちゃいましょうよ』
「うん」
 英司くんは右手を巨人の方に向けました。

「ラスカルパスカル天地神明!」
 英司くんの右手から魔力波が出て、巨人を跡形もなく消し去ってしまいました。

「『やったーっ』」
 合体した自分たちの凄さに二人は興奮しました。

『ねえ、私たちって凄くない?』
「うん、凄かった」
『やっぱり、私たちってやればできる子だったのよ』
 腕組みして勝利の余韻に浸っている英司くんに風が吹きつけます。

「『……』」
 二人は無言で風に当たります。しばらくして、英司くんが口を開きました。

「ねぇ、クーちゃん、あれどうしようか?」
『そうねぇ、どうしよう』
 二人は悩みます。巨人をふっとばしたのはいいのですが、物置の半分も一緒に消し飛んでしまったのです。

「どうしよう。御師様に怒られちゃうよ」
 英司くんはいまにも泣きだしそうになりました。しかし、二人はまだあることに気づいていないようです。それに最初に気付いたのは空子ちゃんでした。

『あっ』
「どうしたの? クーちゃん」
『私たちって、どうやって元にもどるの?』
 そうです。二人は合体を解除する方法を知らなかったのです。

「そりゃ、時間が経てば元にもどるんじゃないの」
 だといいんですがね。

『本当?』
「わかんない」
『んもう、どうすんのよ!』
 本当、どうしましょうかね。





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