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 とある公園。二人の女子大生キコとアコが弁当を食べようとしていた。それぞれが持ち込むものを決めていたようで、片方が二人分の弁当をもう片方がお菓子とフルーツを持参してき た。ところが、フルーツとアンパンが入っているはずの箱には怪しげな人形があるだけだった。

「なによ、これは。これを食べろって言うの? んもう、慌て者」
「アンパン変じて人形に…あっ、そうだ、廊下でぶつかったあいつだ。あいつとぶつかって落とした時に向こうのと間違えたんだ」
「おなか空いたぁっ、死にそうだわ」
 腹が立つので人形を叩いてやった。すると、人形の目がピカピカ光って電子音を発した。

「人形がっ」
「気味悪いっ」
 怯える二人。そんなことはお構いなしに人形から音声が流れた。

「GOOD総司令の命令を伝える。本宮博士をアルテミス宮殿にご案内する。本日14時日向ヶ丘地下駐車場Cの5。時間厳守のこと」
 そう言って人形は爆発して粉々になった。これはGOODの指令人形なのだが、そんなことは二人のお嬢さんの知るところではなかった。だが、聞いてしまった以上、二人の運命 は決まってしまった。二人の背後に突如現れる不気味な老人。大学の廊下でぶつかったという男だ。

「「きゃーっ!!」」
 いきなり現れた男に二人は悲鳴をあげた。その二人の前で男はさらに醜悪な本性を現した。

「おれはGOODのシシオサーベルタイガー。貴様ら、悪魔の復活祭の供え物にしてくれる」
 シシオサーベルタイガーは刀を抜くとあっという間に二人の首を落とした。その直後、頭を失った二人の体に火がついて全体を燃やした。シシオサーベルタイガーは二人の首を拾うと 悠々とその場を後にした。







ドンノルマの使者第7話
『怪談、悪魔の復活祭(前編)』


作:大原野山城守武里




 2月にもなると3年生はほとんど学校に来なくなる。でも、わずかに例外もある。超常現象研究部の前部長だ。彼女はいつも昼飯を部室で食べている。僕も時々だが一緒に弁当を食 べる。先輩と一緒に弁当を食べるのもあとわずかだ。先輩たちが卒業するとこの部には僕と秋山さんの二人だけとなる。結局、新入部員は入ってこなかった。僕も3年生になってからは おそらく部室に来ることはまずないだろう。

「もうすぐ先輩ともお別れですね」
「ん、寂しいのかい? 涼ちゃん」
 さあ、どうでしょう。もう先輩に振り回されることがないと思うと、ホッとしたようなちょっぴり寂しいような。いろいろあった。去年のバレンタインもそうだった。今年は何も無か った。先輩もそんな暇なかった。おかげで助かったが。

「ところでさ涼ちゃん、今年もイトックスにチョコをあげたのかい?」
「いいえ」
「えーっなんであげないの? もしかしてケンカ中?」
「違いますよ。面倒だからですよ」
「本当?」
 先輩が何やらやらしい目をしてくる。なんですか?

「チョコの代わりにもっとすごいものあげたとか?」
 もっとすごいもの? はて、なんだろう。

「たとえば今年はチョコの代わりに私をあげるみたいな?」
 ぶっ。いきなり何を言うんですか!

「だって、その方がイトックスも喜ぶかなって」
 そりゃそうかも……。何せ裸で僕に夜這いをかけようとしたくらいだからな。その時はある事情でこっちも裸だったから若い男女が素っ裸で同じ布団にいたことになる。思い出すと 顔が赤くなる。

「なんで顔を赤くしてるのかな? もしかして図星だった?」
「ち、ち、違います。断じてそんなふしだらな行為は…」
「ムキになるってことは当たらずとも遠からずってことかい?」
「いえ、決してそんなことは」
「何も恥じることはないよ。いいね若いってのは」
 うんうんと腕組みして頷く先輩に僕は必死に誤解を解こうとした。はっきし言うが僕はまだ女子になってそんな行為はしていない。どうか信じてほしい。

「そう言う先輩こそ誰かにチョコをあげたりしなかったんですか?」
「私? 無い無い。本命もいないし、義理も好きじゃないからね」
 他人には去年大量の義理チョコを作らせたくせに。そういや、なんで今年はしなかったんだろう。まあ、受験が大きな理由だろう。意外なことに先輩は成績が優秀で大学進学はほぼ 確実らしい。ちなみに僕も成績優秀だ。特に計算問題は確実に満点は取れる。頭に計算機があるようなものだからな。

「でも、先輩みたいな美人、クラスの男たちがほっとかないでしょ」
「ありがと。でも、それ涼ちゃんが言うと嫌味になるよ」
 どうして? 僕は正直に言うたつもりだが。すると、先輩はあきれ気味に

「君はもう少し自分が美人であることの自覚を持つべきだね」
 そうですか? でも、先輩が美人だというのは正直な気持ちですよ。

「ふふっありがと涼ちゃん。でも、色恋沙汰はいまはいいや。どうせ、いつかは結婚するんだし。そしたら自由に遊べないでしょ? だからいま遊びつくすんだよ」
 先輩はどこかさびしげだった。そんな顔を僕に見せたことはいままでなかった。先輩にもいろいろあるんだろう。ところで、僕は今日10日ぶりの登校だったりする。なんで、10日 も休んだのかって? それは……。



 夜中にふと目が覚める。誰でもあることだろう。その時、たいてい目にするのは見慣れたというか見飽きた天井だと思う。僕だってだいたいはそうだ。ところが、この日は違ってい た。どういうわけか伊東が目の前にいた。それも裸で、しかも僕の布団の中に。僕の頭の横に両手をついて見下ろしている。いつの間に忍び込んだ? いや、窓には鍵がかかっている。 それに、いくら熟睡していたからってすぐ傍で服を脱がれ(さすがに家の外で服脱いで忍び込みはしないだろう)布団に入られるまで気づかないわけはない。いったい何がどうなって んだ? 部屋が暗くて伊東の表情は窺えない。これって夜這い? 待て、まだ僕たちには早すぎる。そりゃ僕だっていつかこんな時が来るとは思ってたよ。極力考えないようにはして きたけどさ。こんな暴挙に出たってことは日ごろよっぽど我慢してたんだろうな。服まで脱いでさ。でもさ、もう少し相手の都合とかも考えてほしかったな。僕にだって心の準備という ものがあるんだし。今日はいや日付が変わってるから昨日の朝から予想外の連続だった。

 ……いい天気だ。本当にいい天気だ。まったく現実逃避するのにぴったりの陽気だ。いま僕は混乱の極みにいる。さっきまで猫になっていた僕はこたつの中で蹲った状態で我に返っ た。こたつから出ると京香がルイに紅茶とお茶菓子を出していたので僕にもお茶をくれるように頼んだ。……気持ちを落ち着かせるためだ。なぜ、ルイもエリシアも何事も無いかの ように振る舞っているんだ? この状況に何の疑問もわかないんだろうか。いつもどうりの炬燵を囲んでの団欒の気分でいるのか。だが、いつもどおりではない。この家にはいつも 僕を含めて4人しかいない。僕とルイとエリシアと京香である。なのにもう一人いる。誰かの客人じゃないのかって? それはありえない。僕以外の人間が外部に知り合いを持つこと はない。僕が学校の知り合いを呼ぶことはない。いままで誰も招いたことはない。玄関まで来たことはあったが、中に入れたことはない。もし、猫化した僕を見られたらもう学校にも お嫁にも行けない。それに、仮に誰かの知り合いだったとしても今日来ることぐらい事前に僕に知らせるはずだ。いったい彼女は何者なのか。いや、何者かは一発でわかった。京香や 他の量産型サヤカが着ていたのと同じ黒一色の服装に僕を幼くしたような顔立ちからして量産型サヤカの一体に間違いないだろう。まだいたのか。しかも、小学生ぐらいの見た目から して京香とは違う時期に製造されたものと思われる。それが当たり前のように我が家でくつろいでいるのだ。図々しいにも程がある。しかも、彼女の手元に猫じゃらしがあるので僕が 猫になっているときにそれで遊んでいたことは容易に想像がつく。







「ヤー、京香はお姉さまにお茶をお持ちしました」
「ん、ありがとう」
 僕は京香からお茶を受け取る。京香はエリシアのところにもお茶を置き、謎の少女のところにホットミルクを置いた。僕はお茶を飲んで気分を落ち着かせると京香に聞いてみること にした。よく考えたら同じ量産型サヤカだ。ひょっとして京香が呼んだのか? それを聞いてみたら謎の少女が代わりに答えた。

「4号は関係ないよ。清香は自分で来たんだよ。と清香はお姉さまに状況を説明〜」
 清香っていうのか。

「そう、桜谷清香。と清香はお姉さまに自分の名前を伝達〜」
 待て、勝手にうちの子になろうとするな。誰だ、勝手に家に上げたのは。聞くまでもない。僕は京香に注意した。

「勝手に知らない人を中に上げるなと言っただろ」
 京香にとっては知っている人かもしれんが。

「4号を怒らないであげて。と清香はお姉さまに要望〜」
 部外者は黙っててもらおう。

「部外者じゃないもん。清香はお姉さまから生まれたようなものだから。と清香は頬を膨らませてお姉さまに抗議〜」
 知るか。それよりさっきから君が抱いてるレッサーパンダのぬいぐるみ僕のだけど勝手に持ち出さないでくれるかな。ってか返せ。

「嫌! と清香はぬいぐるみを抱きしめて拒否〜」
 他のぬいぐるみをやるからさ。

「嫌なの、これがいいの! と清香は激しく拒絶〜」
 さすがは我が分身、好みもドンピシャリ。ぬいぐるみ属性の無い僕だがレッサーパンダだけは例外だった。感情が無いと思っていた京香もレッサーパンダだけには興味を示したくらい だ。何か僕たちの心に響くような魅力がレッサーパンダにはあるのだろう。僕はあきらめることにした。

「……で? 何しに来たんだ?」
 喧嘩売りに来たわけではなさそうだが。

「うん、あのね清香GOOD機関から逃げてきたの。だから、この家に匿ってほしいの。と清香はお姉さまに哀願〜」
「逃げてきた? なして?」
「私たちはもう用無しだから処分するって…だから逃げてきたの。と清香はお姉さまに経緯を説明〜」
 それはひどいな。いかにも悪の組織がやりそうなことだ。って、私たち?

「量産型サヤカがまだあるのか?」
 僕の質問に清香は「うん」と頷いた。

「あとどのくらいいるんだ?」
 まあそんなに数は無いだろう。多くても何十人かそこらだと思う。僕は湯呑に口をつけた。

「えと…たしか…250……」
 その数字を聞いて僕は「ウッ」となりかけた。250人? いくらなんでも多すぎるだろ。

「万人くらいかな? と清香はあいまいな数字を報告〜」
   ブシュ!と僕は茶を鼻からふきだしてしまった。ゲホゲホッ。

「な、なんだと!?」
 250万人だって? 出鱈目言ってんじゃねーぞ。

「出鱈目じゃないもん。と清香はお姉さまに抗議〜」
 ぷーっとむくれる清香。嘘ではないようだが、250万人って作りすぎだろ。

「で、そいつらはどうなったんだ?」
「たぶん、処分されちゃったと思う。と清香は憶測〜」
 暗い顔で言う清香。やはり姉妹が殺されてしまうのは辛いのだろう。よし、と僕は立ち上がった。

「どうしたの?」
 とエリシアが訊く。

「決まってんだろ。妹たちを助けに行くんだよ。まだ全員やられたとはかぎらないかんな」
「お土産買ってきてね」
 遊びに行くんじゃないぞ。妹たちを助けに行くって言ったろ。清香の顔がパッと明るくなった。

「かわいい妹のためだ。どこに行けばいいか教えてくれないか?」
 すると清香は京香に紙とペンを持ってこさせた。

「あのねGOOD機関の日本支部はアルテミス宮殿って言うんだよ。と清香は地図に書いて説明〜」
 喜々として清香はアジトまでの経路を紙に書いた。けっこう遠いな。

「きみはここで待ってろ。なあに心配するな。一人でも多く連れて帰ってやるよ」
「……」
「どうした?」
 清香はじーっとこちらを見ている。何か言いたいことがあるのだろうか。しばらくして、清香は手元に置いてある猫じゃらしを僕の前に持ってきた。

「…あのね、いまは猫じゃないからそんなことしても反応しないよ」
 無駄なことはやめろ。しかし、清香は執拗に猫じゃらしをユラユラさせる。無駄だってば。無駄だって言ってるだろ。だから、無駄だ……にゃんにゃん♪ はっ、僕としたことが つい反応してしまった。さっきまで僕はこういう風に遊ばれていたんだな。妹の前でとんだ醜態をさらしたもんだ。姉としての威厳がまるで無いではないか。去年の春ごろに学校の 廊下を歩いていて、窓にチョウチョがヒラヒラしていたので思わずにゃんにゃん♪してしまったことを思い出す。あの時の周りの視線の痛さは思い出すだけで僕の心を突き刺す。 そんな僕の感傷を知ってか知らずか清香は猫じゃらしをヒラヒラしてくる。ふん、もう絶対ににゃんにゃんしないぞ。耐えてみせるさ。耐えて……にゃんにゃん♪にゃんにゃん♪ にゃんにゃん♪にゃんにゃん♪にゃんにゃん♪ゴツン!

「あーん、お姉さまが叩いた―っ。と清香は号泣〜!」
 ったく。遊んでいる場合じゃないだろ。それとそこの二人、何笑いを堪えてんだ。失礼な奴らだ。清香の泣き叫ぶ声を背に僕は家を出た。バイクに清香が書いてくれた地図を読み込ま せる。これで目的地までバイクが自動に行ってくれる。

「時間が無いからな。全速力で行ってくれ」
 全速力といっても通常モードでのことである。アタックモードになれば時速960キロで走ることができたが危ないので普段はしない。それでも、かなりの高速で走るからそれだけ 早く目的地に着く。しばらくして検問が見えた。何の検問かしらんがいちいち止まっている暇はない。僕はそのままバイクに突っ込ませた。よし、突破成功。すると、パトカーが サイレン鳴らして追いかけてきた。

「ナンバープレートを控えられたら厄介だな」
 いまのうちに対処しよう。後部ロケット弾発射。ロケット弾は先頭のパトカーに命中して大破炎上、後続も巻き添えで次々と事故を起こした。これで口は封じたな。と、思ったら今度 はヘリコプターだ。参ったな、バイクには対空用火器は無い。でも、大丈夫。こういうこともあろうかと携行用対空ロケット砲を持参してある。砲口をヘリに向けると、意図を察した のか旋回しはじめた。もう遅い。僕はヘリを撃墜すると用済みとなったロケット砲を放り捨てた。これで邪魔するものは無いと思いきや今度は前方をふさぐようにパトカーや特型警備車 が何台も止まってバリケードを形成していた。まともにぶつかればバイクも僕もただではすまない。でも、ご安心あれ。こういう時こそアタックモード。

「アタックシールド」
 僕が指示するとフロントカウルからテールにかけてアタックシールドが展開した。これで900キロを越える高速で衝突してもイオンバリアで衝撃から守ってくれる。止まるどころか スピードを上げて突進するバイクに警官たちは慌てふためいてその場から逃げようとするが手遅れなんだな。僕はそのままバイクを突っ込ませた。あっという間だった。後部カメラで 後ろを確認したが、すでにパトカーは見えず黒煙が上がっているのが見えただけだった。

 GOODの秘密基地は当然のことながら人里離れた場所にあった。途中で霧があった。たぶん、人工の霧だろう。これで外部から見られるのをふせいでいるんだな。たしか、清香は アルテミス宮殿とか言ってたから、おそらく立派な宮殿にちがいない。アルテミス…たしか弓が得意な女神さまだったな。弓、ね。まあ関係ないだろう。奴らがなぜそういう名前にし たのかは知らない。だが、宮殿でないことはわかった。悪の組織の秘密基地のイメージぴったりの地下基地だった。洞窟みたいな入口に工作戦闘員が歩哨に立っているのが見える。

「よし、あいつから服を奪って中に潜入しよう」
 ありきたりな手段だが、確実な方法だろう。気づかれないように近づいてデバイスアームのガスハンドで眠らせる。服を脱がせて…と、ここで僕はあることに気づいた。

「こんなに胸が出ていたら一発でバレバレじゃないか」
 いくら「俺は男だ」って言い張っても「そんなにチチの腫れた男がおるか」とブルー将軍に一喝されてしまう。ガクッと両手と両膝を地面に着く。なんてこったい。特撮での常套 手段が使えないとは。ん、待てよ。地下基地ってことは空気を入れるための通気口があるはずだ。僕は通気口を探して基地に潜入した。さすがに秘密基地だけあって迷路みたいな つくりになっている。せっかく潜入したんだ。この機会に探索しよう。あれこれ見て回っていると、ある部屋で白いシーツに覆われた誰かが台の上に寝かされていた。その周りに30 代から40代ぐらいの男二人と工作戦闘員が数名。全員、白衣を着ている。

「両博士、その手術台の人物に手術を行ってもらいたい」
 スピーカーからの指示で博士と呼ばれた二人の男と助手であろう工作戦闘員が作業に入った。

(手術? 誰のだ?)
 確かめてやろう。手術台の人物とやらの顔を覆っている白い布が取り除かれようとしているのをジッと見つめる。あともうちょいだ。その時だった。基地内に警報が鳴り響いた。

「な、なんだ?」
『緊急警報、基地内に侵入者の恐れあり。各員、警戒態勢に入れ』
 侵入者? 僕の事か? どうしてバレた? そうか、通風孔のふたを閉め忘れたんだ。僕としたことが迂闊でした。だとしたら、ここにいるのは危ない。どこか人のいないところで 下に下りよう。だが、警戒態勢に入っているためか工作戦闘員があっちこっち走り回っているので迂闊に下りれない。そうこうしているうちに、とうとう見つかってしまった。

「いたぞ、あそこだ!」
 ちっ、ここでは戦えない。僕は近くにあった蓋を外して下に飛び降りた。下は通路になっていて二人の工作戦闘員がいたが回し蹴りで倒した。上の奴らが下りてくるまで少しある。 いまのうちに変身しておこう。変身してさっき倒した工作戦闘員のスティックを拾うと、魔法で前回も使用した両端に赤いグリップがついたスティックに変えた。そのすぐ後に上から も通路の向こう側からも続々と工作戦闘員が出てきた。さすがにGOODの本拠地だ。もう妹どころじゃないな。出直すとしよう。でも、その前に……。

「手術台の人間が誰か確かめてやる」
 だいたいの位置はわかっている。僕は工作戦闘員を倒しながら手術室を目指した。誰の手術かは知らんがなんか重要な人物な気がする。手術するってことは怪我か病気をしている わけでいまのうちに叩いておこう。だが、行く手を体中包帯だらけの強化改造兵士が阻んだ。

「ここから先は行かさん」
 包帯だらけで何言ってんだ。こいつこそいますぐ手術を受けるべきだろう。と思ったら包帯野郎は怪我人とは思えない動きで刀で襲ってきた。そうか、包帯はフェイクだな。だったら こっちも遠慮はしないぞ。僕はスティックで応戦した。それでわかったことがある。そりはこいつがかなりできるということだ。

「手術室はすぐそこなのに……!」
「無駄だ、諦めろ」
「あの中には誰がいるんだ」
「貴様が知ることは無い」
  ああそうかい。だったらお前を倒してからじっくりと調べさせてもらうまでよ。

「やれるものならやってみろ」
 大した自信だ。しかし、こうして対峙しているだけで相手のプレッシャーに押しつぶされそうになる。なんとか隙を探さないと。

「どうした? たいそうなこと言って今更怖気づいたか?」
 うっさい。

「悪いが時間が無いのでな。来ないならこっちから行くぞ!」
「ま、待って!」
 だが、ミイラ野郎は問答無用とばかりに襲ってくる。その太刀筋はまさしく剣豪といえるものだった。反撃しようにも防戦するので精いっぱいだ。逃げようにもすでに退路には工作 戦闘員がびっしりといる。

「邪魔だ、fire!」
 工作戦闘員の群れに向けて炎を放つ。いつもならこれで全身火だるまの阿鼻叫喚の地獄絵図が演出されるはずなのだが、どういうわけか炎が発射されたとたんに消えたのだ。

「っ!?」
 何度も炎を出すが、やはり出たとたんに消えてしまう。

「何度やっても同じことだ。ここでは魔法は何の役にも立たん」
 どういうことだ?

「我々がおまえら魔導師に対していつまでも無策でいると思っていたのか? 5年前から日々研究してきたのだ」
 5年前? 5年前って僕が造られた研究所がGOODに襲撃された頃じゃないか。

「そうだ。あの時貴様一人に改造兵士3体と当時の監察官が倒されたのだからな。当然のことだ」
「僕が? 何を言ってるんだ。あの時の僕にそんな力があるわけないじゃないか」
 あったら姉さんたちを守っていた。あの頃の僕は自分が造られた存在であることは自覚していたが、自分にどんな力や能力があるかまるで知らなかった。

「黙れ。貴様を殺せばこの世界はほぼ征服したも同然。死んでもらうぞ!」
 物騒なことを言い放ってミイラ男は斬りかかってきた。必死に応戦するも力の差は歴然としていた。しかも、包帯男が刀をブンブン振り回すと刃に火がついた。

「シシオ地獄刃!」
 これでますます劣勢になった。魔法さえ使えたら……。そうだ、デバイスアームなら魔法とは関係ないから使えるはずだ。向こうが火ならこっちは炎だ。フレイムハンドで燃やして やる。それ、火炎放射だ。と、フレイムハンドをミイラくんに向けた瞬間、包帯くんの刀が一閃、デバイスアームを斬り落とした。

「!」
 僕は咄嗟の判断でデバイスアームをミイラ侍に向けて強制排除した。不意を突かれたのか包帯侍はまともに受けた。その隙に僕は奴から距離を取った。危ないところだった。もし、 デバイスアームをぶつけてなかったら僕は斬られていただろう。命拾いしたわけだが、それも束の間かもしれない。デバイスアームが失われたってことは左腕も失ったということだ。 片腕だけではあのすさまじい斬撃を防御するのは難しいだろう。攻めるにしてもああも隙が無いのでは無理だ。隙を作らないと。さて、どうすっか。……そうだ、こないだ剣客商売で 見たアレを試してみよう。僕はスティックを剣にした。直接触る分には魔法は発動するらしい。

「無駄なことは止すんだな。剣で俺とやりあうつもりか?」
 ちゃんちゃらおかしいとミイラマンはせせら笑った。確かにまるで相手にならないだろう。でも、それはそれなりに戦いようはある。

「死ねーっ!」
 誰が死ぬか。僕は向かってくる包帯マンに剣を投げた。魔力を込めて投げているから野球の剛速球くらいのスピードがある。

「小賢しいっ!」
 そう吐き捨てながらぐるぐるミイラは刀で剣を払いのけた。だが、これで奴に隙ができた。僕は右足に魔力を集中させてジャンプした。そのすぐ下を包帯ぐるぐるの横薙ぎの斬撃が 掠める。いまだ。僕は体を旋回させてミイラ武者の額にキックをヒットさせた。果たして、起死回生の一撃になるであろうか。そして、手術台の人物は一体何者なのか。

つづく





 次回予告
手術台に横たわっていたのは死んだはずのポイボス・スピリットだった。だが、その身体に魂を呼び戻すには悪魔の復活祭という呪いの儀式を執り行わな
ければならない。その儀式に捧げる生贄として涼香は拘束されてしまう。魔力を封じられ変身もできずデバイスアームまでも失った涼香に希望はまだある
のか。さらに、GOODは人間をぬいぐるみにしてしまう“人類ぬいぐるみ化作戦”を発動せんとしていた。果たして、涼香と人類の運命は?がんばれ正義の
ヒロイン、阻止せよ悪魔の作戦。変身!仮面ガールBLACK『逆襲ポイボス・スピリット、魔法少女危うし』お楽しみに。










  涼香の詳細について
 今更なんだ? と思われるかもしれませんが、ちょっと整理しておこうと思いまして。主人公の桜谷涼香は当初年齢設定がありませんでした。これは、そもそも前作の12+1が 当初の予定では純然たる魔法少女ものにするはずだったのが、諸般の事情でTSに作り変えたからで主人公をそのまま小学生でいくのか中高生にするのか迷ったからです。結局は 女子高生にすることにしました。
 涼香は人間ではありません。アヤカ・ヴァンガードという魔法少女の生体データを元に造られた人造人間です。当初は女の子でしたが、アヤカの魔法資質を受け継いだものの 精神面に問題があったため試行錯誤の末に男に性転換させることで性格面での問題は解決しました。反面、魔法適性は残ったものの魔導師としての素質はほとんど眠った状態になって しまいました。その後、再び性転換して女に戻りました。年齢は前作12+1で6歳、今作で7歳となります。身長156cmバスト91(Gカップ)ウエスト56ヒップ90。
 なぜ、元々女の子という設定にしたのかと言うと男だったTS娘が男を好きになるのは無理があるのではと思ったからです。本質が女なら男を好きになるのに無理は生じないでしょ う。
  バリエーション
ノーマルタイプ
 通常変身での涼香です。
超涼香
 ペンタザードの魔導師に覚醒した涼香です。この状態になると髪が金色になり長髪になります。無敵に近い強さですが自分の意思でこの状態になることはできません。
サヤカ覚醒時
 涼香は頭の混乱が限界に達すると自動防衛プログラムが起動して元々の人格であったサヤカが目覚めます。サヤカは銃器などを自在に取り出せる武器召喚術士です。ただし、サヤカ には敵味方を判別する能力は無く、周囲の者を敵として排除しようとします。この間の涼香の記憶はありません。

関連するキーワード
  純血の魔導師
 遺伝によって先天的に魔法適性を持った人たちの総称。両親どちらかが魔導師であればその子供にも魔法適性は受け継がれる。時代を経るにつれ数を減らしていき、現在は涼香と ルイとエリシアの3人のみ。ヘキサザードの魔導師とも。

 サヤカシリーズ
 絶滅の危機に瀕した純血の魔導師を人工的に増やす計画によって生み出された人造人間。実験体の零号、試作体の初号を経て涼香となる弐号でもって一応の完成となり量産が決定 した。後に量産型はGOODに回収されて涼香と敵対した。

 デバイスアーム
 前作で涼香は巨大カニと戦って左腕を失っています。そのため義手としてデバイスアームを左腕にハメているんですね。まあ、ライダー4号のカセットアームみたいなものと思って ください。

 猫化
 これまた前作で猫と頭から思い切り正面衝突したことで涼香は猫と同化しています。当初は猫耳と尻尾が出ていたんですが、現在は引っ込んでいます。涼香は時々猫に体を預けて います。彼女は猫に出て行ってほしいと思っているんですが、猫の方は居心地がいいのか出て行こうとはしません。

登場組織
 GOOD秘密機関
 異世界の住人ドンノルマ人がこちらの世界を侵略するために組織した悪の秘密結社。首領である総司令はドンノルマ人の指導者である総統が兼任している。各地に支部があり、大幹 部が支部長として指揮を執っている。大幹部の中で最先任の者が最高幹部として本部長の地位に就く。功績著しく総司令の信任厚い大幹部は将軍ゼネラルの称号を与えられる。他に大 佐も階級名ではなく称号で、作戦に対する助言や監視、場合によっては独断で将軍すらも処断できる権限が与えられている。ただし、原則として指揮権は持たない。大幹部の下に幹部 (規模の大きい支部では中幹部・小幹部に分かれる)、個々の作戦を担当する強化改造兵士・改造兵士、その下で活動する工作戦闘員などがいる。

 総統官房
 正式には総統直属官房。ドンノルマ総統直属の行政機関。絶対君主的独裁者の総統に直属するため時には政府以上の決定権を有することもある。第T部から第Y部まであり、そのう ち第V部はいわゆる秘密警察で第四課が体制内の不穏分子の監視に当たります。GOODとは別組織ですが、ポイボス・スピリットは大佐の称号を与えられたことでGOODの構成員 の監視・処罰を遂行しています。

 ノーグッド連合
 GOODの脅威に対抗するため有志が集った団体。公的機関ではないので武器・装備の類は非合法な手段で入手するしかない。そのため戦力はGOODにはるかに劣り、多くのチー ムが皆殺しになっている。前作でエリシアに壊滅させられたM機関の残党も少なからず参加もしくは協力している模様。




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