『OLDER SISTER(sequel)』

 昼飯時になったので僕らは食い放題の店に入った。食い放題といっても元が取れるまで食べるのは難しいのは有名な話だと思うが、今回の場合はそんな心配はまったくない。一人で軽く4、5人分は平らげるシスター様がおられるんだ。

「よく食べるわねぇ」
 シスターの食いっぷりにテーブルの反対側に座った姉が目を瞠る。事前に僕から聞かされていても、いざ自分の目で見てみると驚きを隠せないようだ。

「えっへん」
 胸を張るシスターに姉は拍手を送った。お世辞ではないようだ。

「シスター、ちょっとストップ」
 サイヤ人みたいな食い方をするのでシスターの口は食べ物で汚れてる。女の子としては行儀悪いので拭いてやる。

「ねえねえ、ところでさ」
 姉が身を乗り出してきたので耳を傾けた。

「本命はどっち?」
 ん?意味不明な事を耳元で囁かれても困る。

「四角関係の本命はどっちかって訊いてんのよ」
 ますます意味がわからん。四角関係ってなんだ?

「あんたとこの娘と私とみったんの事よ」
 みったん?ああ、彼女のことか。なるほど、四角関係…って彼女もシスターもそんなじゃないし、だいたいなんであんたが入ってんだよ。

「あら、お姉ちゃんだって女よ。十分に異性として成り立つじゃない。それとも、やはり年の差が気になる?」
 いや、気にすべきは年の差ではなくもっと重要なことだろう。

「とにかく、シスターも彼女も姉さんが思っているような事はないから」
「えっ、あんた女の子に興味無いの?」
 待て、飛躍しすぎだ。

「道理で私のパンツを盗んだりしなかったわけね…」
 は?僕は耳を疑った。

「思春期の男の子はそういうものだって本で読んだことがあるのよ。だから、本気で心配してたのよ。お姉ちゃんのパンツを盗らないってことは異性に興味が無いってことじゃない かって」
 まるでパンツを盗った方が良かったような言い草ではないか。そもそも、その参考にした本の信憑性は如何ほどのものか。

「その本ってアテになるの?そんな話一度も聞いたことないんだけど」
「当たり前じゃない。姉妹のパンツ盗んだなんて公(おおやけ)にするもんじゃないわよ」
 確かに。そんなの学校で口にしようものなら女子とはお付き合いできなくなることは覚悟しなければならないだろう。果たして、真相はいかに。いや、そんなのはどうでもいい。たとえ、世間一般の思春期の男子がそういうものであったとしても、僕はそんなことは絶対にしない。

「まあとにかく、姉さんが心配するような事はないから」
「あんたが女の子に興味が無いってこと?」
「興味はあるよ。でも、姉さんのパンツを盗ったりはしない」
「……帰ったら折檻ね」
 なんでっ!?

「だって、お姉ちゃんのパンツに興味ないなんて許せないわ」
 えーっ。じゃ、パンツを盗ったら?

「その時も折檻ね」
 どっちだよ。

「冗談よ。怒らないからいつでも盗りに来なさい」
「しないって」
「…やっぱり折檻ね」
 この姉はどこかおかしい。姉というのはこういうもんなのかな?余所様の姉がどういうもんか知らないからわかりようがない。ん、待てよ。

「もしかして…姉さん、僕をからかってない?」
「ふふっ、バレた?」
 なんだよ。やっぱりそうか。安心した。安心したところで肝心の事を訊かないとな。

「ところで姉さんはいつまで日本にいるの?」
「私?しばらくはいるわよ」
「えっ?すぐに帰るんじゃなかったの?」
 てっきり二泊三日ぐらいの帰省かと思ってた。しばらくって事はもしかして何十日いや何ヶ月か?

「なによ、その顔は。私が家にいたらまずいの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
 ある。二、三日なら僕が女性化したことは誤魔化せるだろうけど、長期間となると誤魔化しきるのはかなり困難となる。

「あんた、近況連絡を怠ったでしょ。それで母さんがあんたを心配して私を寄越したのよ」
 あの優しそうな母さんなら有り得るな。子供を想う母の愛に涙が出そうになる。

「私も向こうの生活に慣れちゃってるから今更日本に住もうなんて思わないからあんたがちゃんとしているか確認できたら向こうに帰るわ」
 そ、そうなんだ。ホッ。

「いま、ホッとした顔しなかった?」
「ううん、ううん、姉さんにはいつまでもいてほしいな。あはははっ」
 やばかった。さっきの姉さんは完全に狩る者の目になっていた。姫前さんといい姉さんといいどうして僕の身近な女の人はこうも危険なのだろう。シスターぐらいだな。安心できるのは。と、シスターの方を見たら黙々と食べ続けていて、空になった皿を下げて新しい料理を運んでくる店員さんもさすがに苦笑いしていた。

「すごい食欲ね。これじゃあ家計が苦しくなるのも頷けるわ」
 そこだけが問題なんだよね。

「えっへん」
 ほめてないって。まあ、食費の心配はしなくていいみたいだけど、問題は僕が女性化したことを如何に姉さんから隠し通せるかだ。裸にならなきゃわかんないんだし、お風呂の時に気をつけてさえいたら大丈夫かな?

「ごちそうさま」
 ようやくシスターが食い終わった。勘定を済ませて店を出る。今度から外に食べに出る時はここにしよう。いや、あんまし頻繁に行くと出入り禁止になるかもしれない。何件か食い放題の店を探す必要があるな。

 −−−−−−

 買い物が終わって家に帰ると姉さんは疲れたと言って部屋で休んだ。僕はシスターとゲームしたりして過ごし、夕方となって晩御飯を食べた。ここでもシスターの食いっぷりに姉は感心しきりだった。食器を片づけて洗浄して拭いて収納してからシスターとテレビを見る。そこへ、姉さんがやってきた。

「お風呂が沸いたから入りなさい」
「僕らは後でいいよ。姉さんが先に入りなよ。久しぶりの日本だからさ。ゆっくり浸かるといいよ」
「気を使わなくてもいいわよ。私はやることがあるから後でいいわ」
「そう?じゃ、僕が先に入らせてもらおうかな」
「そうしなさい。着替えは後で持って行ってあげるから」
「ありがとう。頼むよ」
 んじゃ風呂に入るか。脱衣所に行って服を脱ぐ。近くに姉さんがいないか確認。いないな。すぐにトランクスとシャツを脱いで風呂場に入る。

「ふう」
 第一関門はクリア。次の関門まで体を清めるとしよう。頭と体を洗って湯船に浸かる。いい湯だなアハハン♪ってか。何も難しく考えるこたぁ無い。風呂入る時と上がる時に姉さんに裸を見られなきゃいいだけなんだし、そのことは大して難しいことじゃない。姉弟といっても男と女なんだから互いに気を付けたら済むだけの事だ。それよりかは今日は荷物持ちで疲れたからゆっくり癒そう。風呂はいいね。嫌な事とか辛い事とかも洗い流してくれる。風呂は命の洗濯とはよく言ったものだ。

「着替えここに置いておくわよ」
 脱衣所から姉の声が。

「ありがとう」
 と、普通ならこれで終わるはずだ。しかし、僕は有りえない光景を目の当たりにする。着替えを置いて後は出ていくだけの姉さんがなぜか脱衣所に留まっている。何をしているかと思ってたらなんと服を脱ぎ始めたではないか。

「ちょっ、あんた何やってんの!?」
 まさか、風呂に入る気?僕が入ってるのわかるよね?

「久しぶりに一緒にお風呂に入りたいなって」
 なにをバカなことを。

「だって、かわいい甥っ子がどんだけ成長したか確認したいじゃない」
 甥っ子?何、言ってんだ。あんた、僕の姉さんじゃないのか?

「だから、かわいい弟のムスコの成長具合を確かめたいんじゃないのよ」
 ようやく、僕は姉が何を言わんとしているかわかった。

「出てけっ!」
 僕が怒鳴ると姉は渋々出て行った。一体、うちの教育はどうなっているんだ?まさか、母さんまでああいう人なのか?そういや、父さんもいるはずだから一緒に風呂に入ろうとか言われたら隠しきれないぞ。いまは離れて暮らしているけど姉さんみたいにいつ帰ってくるかもしれない。もし、僕が女体化したことが発覚したら、もうこの家にはいられない。人間に正体が知られると僕は光の国に帰らなければならない。

「やっぱし、いつまでも隠し通せるわけはないよな」
 そして、家族に女性化していたことがバレた僕は不法侵入の現行犯でシスターとともに警察に逮捕され厳しい取り調べを受けることになる。

「なんで、あの家に住んでいたんだ?あの家にはあそこの家族の長男がいたはずだがどうしたんだ?」
「だから、それが僕なんですよ」
「いいか?何度も言うぞ。長男をどうしたと訊いてるんだ。お前さん、女だろ」
「何度も言ってるじゃないですか。あのシスターに女の子にされたって。信じてくださいよ」
「あのな、警察を嘗めんじゃないぞ。あの家の長男をどうしたか言えないってことは言えない理由があるんだろ?お前さん、あそこの長男に成りすまして学校に行ってたんだってな。 ってことはあそこの長男に生きててもらっちゃ困るってことだよな?」
「な、何を言ってるんですか」
「あんたはあそこの長男を殺害して遺棄した。違うか?」
「違いますよ。バカな事言わないでください」
「いつまでもシラをきりとおせると思うなよ。悪い事は言わん。全部ゲロッて楽になれ。ほら、カツ丼が来たぞ。食え。食っている間に田舎のお袋さんを思い出すんだ。お袋さんに悪いとは思わないのか?お前さんの事を知ってきっと泣いてるぞ」  連日の取り調べにとうとう僕は罪を認めて送検されて起訴されて判決の結果、有罪となり一生を棒に振る。

「い、いやだ。そんなの」
 だって、僕なんにも悪い事してないよ。ちゃんと清く正しく美しく生きてきたじゃないか。…美しくはないか。

「と、とにかく、女性化の事知られないように気をつけないと」
 何が何でも隠し通さないと僕に明るい未来は無い。また、姉さんが来るかもしれないからな。そろそろ、上がるとしよう。姉さんは…いないな。いまのうちに急いでバスタオルで体を拭いて服を着る。そして、自分の部屋へ。ちょっと早いけど今日は疲れたからもう寝よう。お休み。ちょっと大変だけど初日はなんとかバレずにクリアできた。

 −−−−−−

 翌朝、リビングに行くと姉が真剣な面持ちでテーブルに両肘をついていた。

「どしたのさ。朝からそんな難しい顔しちゃってさ」
「いいから、そこに座りなさい」
「?」
 なんだろう。怒られるような事なにか僕したかな?言われたとおりに座る。シスターはまだ寝てるようだ。

「あんた、なんで女の子になってた事言わないのよ」
「!!」
 声にならない驚き。バレてる?しかも、疑惑じゃなく確信。待て、罠かもしれない。動揺させて自白を誘導する手か。

「な、なんのことかな?朝から冗談言わないでよ」
「しらばっくれても無駄よ。全部、わかってるんだから」
 なぜだ?なぜバレた?

「今更シラを通してもしょうがないでしょ。怒らないから正直に言いなさい」
 ここまでか。僕は観念して頷いた。

「うん……」
「ったく、あんたって女になってもほとんど変わんないのね。夜中にチェックしてなかったらわからないままだったわ」
「チェック?」
「あんたが寝ている時にね」
 寝ている時?なんだろう。?に思っていると姉は両手を頬に当てて、

「ちょっとパンツの中を覗いちゃった。ポッ」
「なにやってんだよ、あんたは!?」
 ポッじゃないよ。なんで、そんなことしたの?

「だって、母さんからあんたの事を任されている身としては成長具合を確かめておかないといけないじゃない。それで、ここ数年でどんだけ成長したかなと期待しながら見てみた らきれいさっぱりなくなってるじゃない。それで、あのシスターの娘に訊いたのよ。そしたら、あんたを女にしたって言うじゃない。びっくりしたわよ。本当に」
 あんたの行為の方がびっくりだよ。開いた口が塞がらないとはこのことだな。僕の姉はやはり只者では無かった。






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