『CHILDHOOD FRIEND』

"コケコッコー"
 これ、僕の目覚ましのアラーム。朝か。ベッドから体を起こしてカーテンを開ける。お天道様おはようございます。今日もいい天気だ。天気がいいと気分も爽快だね。はっはっはっ。トイレに行こう。便座をあげて股間のイチモツを取り出す。

「あれ?」
 無い、無いよ。なんで無いんだ?夢か?てっきり起きたものと。ほっぺたをつねる。痛い…。夢じゃない。どうなってんだ?パンツの中を確認する。無い。

「…そうだった」
 思い出した。昨日、女の子になっちゃったんだ……。今日の僕の爽快な気分はわずか1分で終焉を迎えた。両手と両膝を床に着く僕にシスターのコスプレをした少女が部屋から出てきた。

「おはよう。どうしたの?朝から元気ないね」
 まるで関係ないかのように挨拶したこの少女は僕をこんな体にした張本人だ。…かわいいから怒る気にはどうしてもなれない。

「なってしまったものはしょうがないか」
 せっかく上げた便座を再び下ろしてその上に座る。

「……ウォッシュレットにするか」
 使用頻度は間違いなく上がるだろうからな。トイレから出て、顔と手を洗い歯を磨く。そして、朝ごはん。

「……朝からよくそんなに食えるな」
 シスターは丼鉢に漫画日本昔話みたいに超山盛りにされたご飯をバクバク食べていった。さらに、おかわりときたもんだ。

「すっごい食欲だな」
「えっへん」
 褒めてるんじゃなくて呆れてんだよ。晩の分まで食べちゃって。

「ねえ、今日も"ガッコウ"いくの?」
 そうだよ。だから、いい子に留守番してろよ。

「私も行きたいな」
 だーめ。おとなしく留守番してな。

「ぷぅ」
 ほっぺたを膨らませてむくれるシスター。うむ、かわいい。いつまでも眺めていたいが学校に行かなくては。部屋に戻って制服に着替える。袖も裾も余りまくっている。

「……やはり隠し通すは至難か」
 見た目はそんなに変わってないが、明らかに小型化している。どれくらいかと言うと、連邦軍の主力MSがジェガンからヘビーガンに小型化したくらい小さくなっている。

「でもなぁ本当の事言ったところで誰も信じないだろうし」
 困った問題だ。なるようになると腹をくくるしかないか。意を決して家を出る。

「おはよう」
「おはよう」
 クラスメートと挨拶を交わしていく。今んところ誰も気づいていないな。一瞬、立ち止まって「?」みたいな顔をする奴もいるけど気にしない。校門が見えてきたところで姫前(きのまえ)さんと合流。

「おはよう」
 と、声をかける。姫前さんも「おはよう」と返してくれた。よし、彼女にも気づかれてない。彼女とは幼稚園からの付き合いらしいから彼女にバレなかったら安心だ。姫前さんが僕をジロジロ見るのが少し気になる。

「ねえ、もうすぐプールの授業始まるけど、あんた今年はどうすんの?」
「今年はって?」
「忘れたの?あんた、プールに入れないじゃない」
 そ、そうだっけ?

「去年のプールの授業であんたが男物の海パンで出てきたら男どもが鼻血を噴出してプールを文字通りの血の海したじゃない。それで、学校からプールの授業を受ける時は胸を隠す物 を身に着けなさいって指導されたでしょ。でも、あんたは"そんな女子みたいな事はできません"って言ってずっとプールの時は見学してたんでしょ。 佐藤から聞いた時は笑っちゃったわ。確か、あの時は遅れてプールに行ったんだっけ?」
 ……忘れた。そうか、そんな事があったのか。でも、今日は確かプール掃除だったな。

「自分が使わない設備を掃除させられるのか。なんかやだな」
「この世には納得できない事の方が多いのよ。それに、あんたが胸を隠せばプールに入れてもらえるんだから」
「男のプライドとしてそれは嫌」
 いまは女だけど。

「だったら大人しくプールを掃除することね」
「……はい」
「よろしい。でもね、あたしもあんたがもうちょっと男っぽかったらなって思うよ」
「本当?」
 それは嬉しい。

「だって、そうじゃなきゃ約束を果たしてもらえないから……」
 ん、約束?はて?姫前さんは僕とどんな約束したんだ。それに彼女の様子がおかしい。いつもと違う。なんかモジモジしてるって感じ?

「あの…約束って?」
 全く覚えが無いので訊いてみる事にした。すると、姫前さんの目が一転して獲物を狙う狩人(ハンター)の目になった。

「あんた、まさかあの時の約束を忘れたわけじゃないでしょうね?」
「え、えーと…」
 僕は必死に言い訳を考えた。少しでも回答を間違えると命は無い。

「…ごめんなさい」
 結局、正直に謝ることにした。下手に言い訳するよりもこっちの方が罰が軽いと思ったからだ。

「しょうがないわね。チャンスをあげるわ」
「チャンス?」
「放課後までに約束を思い出すこと。でなければ、あんたはあたしの部屋に飾られる事になるわ」
「飾られる?」
 意味がわからない。そんな僕に姫前さんは冷酷に言い放った。

「首だけをね」
 ……絶対に思い出します。

 −−−−−−−−

 とは言ったものの全く思いだせない。このままでは私の命はフリーザ様に…じゃなかった僕の命は姫前さんに取られてしまう。そうこうしているうちにプール掃除の時間になった。みんな、更衣室に行って体操服に着替えるが、僕はあとから行くことにしている。理由は聞かないように。  プールに行くと、クラスの皆がブラシでゴシゴシ掃除していた。水は事前に教師が栓を抜いてくれているので時間が短縮できて助かる。水槽を掃除する係とサイドを掃除する係に分かれて掃除する。僕はサイドを掃除する係に加わった。この毎年行われるプール掃除は夏の風物詩だが、果たして我々がやる必要があるのだろうか。というのも水槽に生えているコケとかはブラシでこすってもなかなか落ちない頑固者もいるからだ。たとえ、落とせたとしてもそれは表面だけで根は残っているらしい。結局、中途半端なままプール開きになるとは佐藤の弁だ。僕はそんなことは知らなかったが、だとしたらこの掃除をする意義はなんだ?でも、大多数の生徒はそんな事は知らないし、気にもしない。皆(といっても男子だけだが)が不満に思っているのは…。

「なんで、事前に告知するかねぇ」
 一人の男子がぼやく。それに数人が同調した。

「まったくだよな。余計な事言うなってんだ」
 彼らが文句をつける理由。それは、今回のプール掃除が事前に告知された事だった。それがなぜいけないのかと言うと……。

「「「女子全員、下に水着を着ているじゃねーか」」」
 そうなのだ。プール掃除を経験した事がない者でも、プール掃除=水に濡れるというのは周知に近い事実だ。当然、水に濡れると体操服は透けて女子の場合はブラが見えてしまう事になる。それは女子にとっては恥ずかしい事だから、事前に告知されたら透け防止に体操服の下にスクール水着を着る事になる。これが当日にプール掃除を告知されたら、そんな防止策もとれないから水に濡れないように注意しながらも結局はずぶ濡れとなり男子の目の保養となる。男子が怒るのも納得いただけると思う。

「暑いし、面倒だし、その上に唯一の楽しみまで奪われたんだからテンションが低いわけだな」
 僕は佐藤と一緒にサイドを掃除している。なぜ、サイドを掃除する係になったかというと佐藤に接触するためだ。奴には聞きたい事がある。

「あのさ、聞きたい事があるんだけど」
「なんだ?」
 僕は姫前さんとの約束の事を話した。佐藤なら何か知っているかもしれない。

「約束?知らないな。お前が記憶にないくらいだから、小学校以前じゃないのか?だとしたら俺が知るわけないだろ。俺とお前が会ったのは中学校の時だからな」
 そうだったのか。意外と浅い付き合いだったんだな。うーん、困った。他に小学校いや幼稚園から一緒だった奴いないかな?

「待てよ。そういや前に姫前から聞いた事があるぞ。小学校の時にお前と何かの賭けで勝負して、そんで姫前が勝ってお前に高級フランス料理を奢ってもらう事になってるって。 それじゃないのか?」
 高級フランス料理って、小学生にしてはずいぶんとスケールのでかい賭けをしたんだな。朝に姫前さんが僕がもう少し男っぽかったらと言っていたのも、男らしく約束はちゃんと守れって事だったのか。よし、一か八かこれで行ってみよう。

「おい、よけろ!」
 突然、佐藤が叫んで僕から離れた。?と思った瞬間、僕は水をぶっかけられた。

「こらぁそこ!サボってないでちゃんと掃除する!」
 姫前さんだ。ホースを持っているから彼女が水撒き役か。

「とんだ災難だな。もう掃除も終わりかけだから着替えて来いよ」
 そうする。僕は一足先に更衣室に向かった。幸い、着替えは持ってきているが…。

「あーあ、パンツまでびっしょびしょだ」
 濡れたのは服とズボンだけじゃない。トランクスまで濡れていた。

「トランクスあったかな?」
 ロッカーの中をあさってみる。あった。よかったよかった。服を全部脱いで裸になる。早く着替えないと皆が来ちゃうからな。でも、10分以上の余裕はあるはずだ。着替えるには十分だ。と、油断していたら…。

「おーい、姫前が……」
 と、ドアを開けたのは田中だった。何か用事があったのだろう。でも、タイミングが悪すぎた。先述したように僕はいま裸である。いくら小さいからといって一応胸のふくらみはあるし、何と言っても股間にアレがない。田中は数秒固まった後、驚愕の表情になった。

「お、おおお前…」
 まずい。ここで叫ばれては皆に女の子になった事が発覚してしまう。僕は田中のところへ走って行ってジャンプして奴の頭を両足で挟んで顔に両膝蹴りをくらわせた。ぐらっとなった田中は壁に頭をぶつけて気絶した。

「こいつをこのまま生かしておくわけにはいかないな」
 僕は急いで服を着ると、田中の服を全部脱がして女子更衣室に運んだ。そして、女子のパンツを田中の両手に握らせて、さらに口の中にも詰め込ませて、その上に顔にパンツをかぶせて、最後に女子のパンツを田中に穿かせてパンツの両脇を伸ばして一回交差させて両肩に通した。これで、女子が戻ってきたら田中はこの学校から抹殺される。これで田中の服を全部焼却炉にぶちこめば完璧だ。急ごう。と、僕はあるものに目がとまった。姫前さんのパンツだ。
「……」
 僕は無言でパンツをポケットに入れた。プールに戻ると姫前さんがプンプンしていた。

「遅かったわね。何してたのよ」
「ごめん…」
「田中を呼びに行かせたんだけど会わなかった?」
「ううん」
「そう、あのバカどこ行ったのよ。見つけたらキャメルクラッチでラーメンにして喰ってやる。あんたもどう?」
 御相伴にあずかろう。

「じゃ、これにて解散!」
 僕らは掃除用具を片づけて解散した。その直後、女子更衣室から悲鳴が聞こえたが、何かあったのだろうか。

「おい、あれ田中じゃね?」
 誰かが更衣室を指差す。女子更衣室から女子のパンツを穿いて、顔にもかぶった田中が飛び出してきた。

「誰かぁ、痴漢よ!!」
 更衣室から女子が叫ぶ。田中は何かを探しているかのように走り回っている。僕は大柄の武藤の背後に隠れた。田中は何かを訴えようとしているようだが、口ん中に何か詰まっているのかうまく喋れないようだ。取ればいいだけの話だが、精神的に異常を来しているようだ。そんな田中に女子が石を投げ始めた。女子更衣室から出てきたのと、その恰好からして誰がどうみても変態だ。やがて、男子も石を投げ始めた。無論、僕も加わった。たまらなくなった田中は校門の向こうの道路に飛び出して、たまたま走行していた大型トラックにはねられて即死した。

「あれじゃあラーメンにするのは無理かな」
 別に田中のラーメンなんか喰いたくないけどな。腹壊しそうだ。

 −−−−−−−−

 騒動の後、僕は姫前さんと教室でふたりっきりになっていた。

「どう?思い出した?」
「うん。男は一度かわした約束は絶対に違(たが)えない。いまは無理だけどいつか必ず約束を果たすよ」
「そう…よかった……」
 どうやら佐藤から聞いた話で間違いなかったようだ。よかったよかった。緊張で汗がたれてきた。えっとハンカチは無かったかな?ポケットを調べると布みたいな感触が。これだな。取り出して汗を拭き取る。

「……それなに?」
 姫前さんがジト目でこっちを見ている。これ?僕のハンカチ…じゃなかった。

「それ、私のパンツじゃないの?」
 しまったぁ!つい本能に身を任せて反射的に取ってしまっていた。

「え、えと……」
 必死に言い訳を考えるが、多分どんな言い訳しても無駄だろうな。姫前さんが怒りに震えているのがわかる。

「更衣室に無かったから田中が盗ったと思ってたら犯人はあんただったのね!さては、田中とグルで…」
「違う。これは何かの間違い…」
「問答無用!」
 命の危険を察した僕は逃走を図ったが、その前に姫前さんに捕まった。姫前さんは僕を仰向けの状態で両肩にのせて、僕の顎と足をつかんで背中を弓状に反らせた。

「ギブ、姫前さん、ギブアップだって」
「バカね。これはアルゼンチン・バックブリーカーじゃないからギブアップなんか狙ってないわよ」
 え?でも、これどう見ても……。ま、ましゃか……。

「そう、これがロンドン名物……」
 数秒後、僕の背骨はへし折られた。





もどる

トップへ