『SIDE STORY2』

 荒野を走る一台の車両。その荷台は檻になっていて中には数人の人間が確認できる。これは奴隷運送車で各地で捕えた奴隷を運んでいるのだ。それを崖の上から見下ろすバイクの集団。戦闘のリーダーらしき男がさっと手をあげると集団は一斉に崖を下って車に迫った。異変を察知した車はスピードを上げて逃げようとしたが、振り切る事ができず運転手と護衛の兵が殺されて奴隷たちは解放された。奴隷たちを解放した集団は彼らを連れてアジトに帰還した。一人の女性が出迎える。

「おかえりなさい。お疲れ様」
 その後から子供たちがぞろぞろ出てきて解放された奴隷たちを見て嬉しそうに駆け寄る。

「パパ!」
「ママ!」
「太郎!」
「次郎!」
 実は奴隷たちと子供たちは親子だったりする。感動の対面に一同の顔が綻ぶ。彼らは帝国の支配に抗するレジスタンスでこうして連れ去られる奴隷たちを解放しているのだ。しかし、帝国による奴隷狩りは後を絶たず、救えなかった奴隷たちも少なくない。

「もう少し、私達に力があれば帝国に真っ向から太刀打ちできるのに」
「しょうがねえさ。奴らに太刀打ちできるハンターはもうあんたしかいなくなってしまったんだからな」
「……」
 女性の顔が曇る。彼女の脳裏にかつての仲間でいまは最大の敵となってしまったハンターが浮かぶ。その元ハンターによってこの世界の守護者も同然のハンターのほとんどが殺されてしまった。残っているのは彼女とその弟子であるハンターの卵と言うべきリーダーだけである。

「これが特撮とかアニメだったら、たったひとりのヒーローが悪の組織と戦って最後に勝利するって筋書なんだろうけど現実は厳しいな」
「ごめんなさい…私にもっと力があれば……」
「自分を責めんなよ。人間一人の力で巨悪に立ち向かうって方が馬鹿げているんだ。俺達人間は一人一人の力は大したことないが、団結することで大きな力を持てる。それを奴ら に思い知らせてやろうぜ」
「うん……」
 実はこの二人、ただの師弟とか仲間以上の関係だったりする。かといって決して恋人とかそういう事ではない。男、グランゼルという名前だが、彼には女性(こちらはみちるという名前である)に対し好意はあるが、みちるにはそこまでの気持ちはなかった。年の差というのもあるだろうが他に想い人がいるからとグランゼルは推測する。みちるが何も言おうとしないため確証は無い。だが、いまはそれでいいとグランゼルは思っている。いまの状況では釣り合わないと思っているからだ。彼女を守れる男になったら告白しようと思っている。いまは一緒に行動できるだけで満足だった。そこへ、男が慌てた様子で駆けつけてきた。

「た、大変だっ!」
「どうしたんだ?」
「ブラックベレーだ!とうとうここを嗅ぎつけたらしい」
 一同に緊張が走る。ブラックベレーとはこの世界の人間によって構成されるAFDの特殊部隊の名称である。正式にはAFD特殊作戦コマンド隷下の第11特殊任務グループ(通称:イレブンズ)第9ユニットという。身命を賭して帝国に忠誠を示さなければならない彼らは正規軍以上に攻撃的で女子供にも一切手加減しない(少しでも手加減したら利敵行為と疑われてしまう)部隊として恐れかつ嫌われてきた。グランゼルはすぐさま指示を出す。

「撤収だ!急げ。女子供を先に逃がせ。戦える奴は俺と一緒に時間を稼ぐぞ!」
「グランゼル!」
「みちるは避難誘導を頼む」
「わかった。皆、こっちよ!」
 みちるが子供たちを誘導しようとした矢先、爆発音と銃声が聞こえた。ブラックベレーが突入してきたのだ。突入したブラックベレーは2チーム計30名。まったくの急襲でレジスタンスは応戦の準備もままならずに射殺されていった。ようやく散発的に応戦が始まるも逃げ惑う女子供が邪魔で思うように撃ち返すことができない。一方、ブラックベレーはそれには構わず発砲した。皆殺しが命令されているからだ。

「奴ら子供にまで銃を撃ってきやがる!」
「なんて奴らだ!」
 仲間からの知らせでグランゼルは怒りを露わにする。同時に状況を冷静に分析する。敵は表からしか侵入してきていない。と言う事は、まだアジトは完全に包囲されていないのだろう。それならまだ脱出できる望みはある。裏口のジープやトラックに逃げ込めばそれで逃走できる。みちるは女性や子供たちをそこまで行くように誘導していたが、裏口がある方から悲鳴が聞こえたので急いで駆け付けるとワーム型のモンスターが女性や子供を捕食していた。

「くっ!」
 みちるは円盤状の物体を取り出すとそれにトランスメモリーというメモリスティックを差し込んで胸の前まで持って行った。

「変身!」
 円盤状の物体が粒子となって、みちるの全身を包む。一瞬にしてみちるはハンターに変身した。

「ライトブレード!」
 光の剣を手にしたみちるはそれでワームを斬り裂いた。泣きながら抱きついてくる子供たちの頭を撫でながらみちるは逃げ場が無い事を悟った。グリーンベレーが表からしか侵入しなかったのはモンスターに襲われるのを避けるため(モンスターにエサとそうでない人間を区別する頭は無い)だったのだ。おそらく裏口に配置されているモンスターはこれ一匹じゃないだろう。

「皆、もどって!」
 そう指示した時、みちるはものすごい悪寒に襲われた。

「この気配…まさか?」
 みちるは結界を張ってモンスターが侵入してこないようにしてから表の方に急いで戻った。その頃、表の入口付近では制圧が完了しており、黒いヘルメットとマスクで顔を覆った人物が白いヘルメットとマスク、防護服に身を包んだAFDの正規兵を引き連れアジトの内部に入っていた。この人物は大帝より“ダークナイト”の称号を得た戦士で数多くのハンターを殺戮した張本人である。ダークナイトらが通る先には死屍累々の惨状が。いずれもレジスタンスや彼らに匿われた奴隷たちに女子供である。ところどころに死にきれてない人間がいたが、正規兵たちが頭に銃弾を送り込んでトドメをさしていった。そこへ、伝令役のブラックベレーが駆けつけてきた。

「伝令、アジトのおおかたは制圧するも未だ奥の方で敵が抵抗を継続、完全制圧にはまだ時間がかかる模様、以上!」
「ご苦労」
 伝令を帰らせるとダークナイトは正規兵たちに指示を出した。

「お前たちはアジトをくまなく探索してまだ生きている者を見つけ次第射殺しろ。人間が隠れそうな場所はすべて調べるんだ。行け!」
「「「はっ!」」」
 命を受けた正規兵たちはまだ息がある者を見つけてはトドメを刺し、隠れている人間を見つけては引きずり出して射殺した。銃声と悲鳴が響く中、ダークナイトは一人で奥の方に向かっていたが、丁字路に差し掛かったところを隠れていた子供に腹を刺された。ナイフは根元まで刺さっていたが、ダークナイトは何ら動じる事なくナイフを自分で抜くと震えている少女の頭に垂直に突き刺した。

「バカめ、こんな事で私が殺せると思っているのか」
 少女の死体には一瞥もくれずダークナイトは先へ進んだ。

「ふっふっふっふっふ、感じるぞみちる。お前の気配を。お前を近くに感じるごとにお前から受けた全身の傷が疼くわ」
 まだダークナイトを名乗る前、みちるとの戦いで上半身の半分を火傷し左腕を失う重傷を負っている。いまある左腕は機械の腕だ。それ以来、みちるへの憎しみを募らせてきた。そして、二人は再び相まみれた。先にみちるが駆けつけてハンターの力でブラックベレーを撃退したところにダークナイトが姿を現したのだ。

「久しぶりだな、みちる。ところでお前の後ろにいる奴、そいつもハンターか?相変わらず新しいハンターを育てているのか。私に殺されるだけだと言うのに。当然、その男も例外ではない」
「彼は殺させないわ。私の命に代えても」
「ならば、お前から殺そう」
 ダークナイトはヘルメットとマスクを外して素顔を晒した。

「お、女?」
「ダークナイトって女だったのか?」
「しかも、かなり若いぞ」
「てっきり男だとばかり思ってた」
 自分達の敵が女それも少女と言っても差し支えない事に一同は戸惑いを隠せない。顔が半分爛れているので目を背けたくなるが、よく見ると元々は可愛らしい少女だったことがわかる。と、ここで一人がある事に気づいた。

「ちょっと待て、ダークナイトってみちると同世代のハンターだったんだろ?それなのになんで向こうは歳を取ってないんだ?」
「そういや…なんでだ?」
「人間じゃないんじゃないか?」
 ざわつく仲間たちをみちるの怒声が黙らせる。

「バカな事言わないで!彼は人間よ!」
(彼?)
 グランゼルはみちるがダークナイトの事を“彼”と言ったことが気になった。ダークナイトはどう見ても少女である。ならば、“彼”ではなく“彼女”と言うべきだろう。

「人間か…お前はまだそんな事言っているのか」
 ダークナイトは次に装甲服を外していく。まだ幼さの残る顔立ちと同様華奢な体つきである。顔と同様体も左半分が爛れていて先述したように左腕は機械の義手である。

「みちる、なぜ私がこの傷を治さないかわかるか?お前への憎しみを忘れないためだ」
 そこへ先端にレバーがついたドーム型の物体が飛んできた。ダークナイトはそれを右手でキャッチするとベルトのバックルに装着してトランスメモリーを2本差し込んでレバーを引いた。

「変身!」
 みちるの時と同じように「変身!」の掛け声で変身アイテムが粒子化して全身を包むことで変身が完了する。ただ、みちるや他のハンターたちと違うのは、粒子に包まれた後にまた別の粒子に包まれることだ。

「リヒトシュトック!」
 ダークナイトはみちるのと同じような光の剣を手にして、先端をみちるの方に向けた。

「来い、お前も仲間たちの元に送ってやる」
「かつてはあなたの仲間でもあったのよ。ユー」
「…二度とその名を呼ぶな!」
「あなたの本当の名前じゃない!」
「黙れ!」
 二人は激しく斬り結んだ。その光景をグランゼルたちは固唾をのんで見守る。最初はグランゼルも加勢しようと思っていた。ダークナイトはこれまで何人ものハンターを葬ってきた猛者だからだ。だが、そんなダークナイトにみちるは互角に戦っていた。それもそうだ。みちるは過去にダークナイトに勝ったことがあるのだ。その時は情が働いてトドメを刺さなかったばかりに復活したダークナイトによってハンターのほとんどが殺されてしまう事態になってしまった。その事に一番心を痛めているのはみちるだ。だから、今度こそはダークナイトを倒してくれるはずだ。それと、二人のレベルがすごすぎて迂闊に加勢しても足手まといにしかならないことを痛感してグランゼルは黙って見守る事にした。

「前よりもさらに動きにキレがあるな、みちる」
「あなたも前より強くなっているわね」
「お互い鍛錬を欠かさなかったようだな。だが、お前は私には勝てない。いまの時点で私と互角でしかなかったらお前に勝ち目はない」
 ダークナイトの言葉にグランゼルは隣の仲間に尋ねた。

「なあ、どういう意味だ?」
「知るか」
 すると、別の仲間が口をはさんだ。

「みちるの息があがっているぞ」
 言われてみちるの方を見ると、確かに息があがっている。それだけ激しく動いたということだ。しかし、ダークナイトの方はまったく息が上がっていない。そして、初めは双方攻めたり守ったりの応酬だったのがいまはダークナイトが一方的に攻めて、みちるはそれを防ぐのに精いっぱいの状態になっている。

「衰えたな、みちる」
 上からの斬撃をライトブレードで防いだみちるの腹を蹴り上げさらに回し蹴りを喰らわせる。

「確かに昔より技のキレがあり、戦い方も洗練されている。だが、お前は狩人としてはもう峠を越しているのだ。狩人が現役で戦えるのはせいぜい10年だ。お前はもう狩人として戦える体ではない。勝負あったな」
「バカ言わないで。諦めない限りまだ勝負は終わらない」
 みちるは立ち上がると、ライトブレードのスイッチを切って刀身を消してそれを放り投げた。

「武器を捨てる?どういうつもりだ?」
 ダークナイトはみちるの行動を訝しむ。全く予知できない行動だった。

「勝負を捨てるのか?」
「言ったはずよ。私は諦めないって。これ以上私の仲間を殺させはしない」
 神に祈りを捧げるように両手を組んで片膝を着く。

「これが私の最後の力…」
 みちるの全身から赤いオーラみたいなのが発せられる。そして、仲間以外の人間やモンスターの動きがすべて封じられる。

「結界!?」
 それは仲間以外の動きを封じる結界だった。しかし、彼女一人の力ではダークナイト一人の動きを止める事すらできないはずだ。

「まさか、自分の命を?」
 そう、みちるは自分の命をパワーに代えて結界を強くしているのだ。だが、それは命を削るに等しい行為でそう長くは続けられない。みちるは仲間たちに指示を飛ばした。

「皆、早くここから脱出して!」
「あ、ああ、あんたは?」
「私はここで彼らを足止めする。構わないで早く行って!」
「そんな事できるわけないだろ!」
「いいから!もうそんなに持たない!」
「だったら、いまのうちにこいつを殺(や)ればいいんだろ」
 グランゼルは銃口をダークナイトに向けた。そして、引き金を引いた。銃声が響いてダークナイトの胸に命中する。だが、胸から出血して口からも血が出ているにも関わらずダークナイトは平然としていた。

「なっ!?くそっ!」
 今度は何発も胸に撃ち込んだが、それでもダークナイトは死ぬどころか重傷を負っているようにも見えなかった。

「無駄よ…なぜだかわからないけど彼は不死身なのよ……」
「不死身……?」
 その事実にグランゼルは愕然となる。死なないのであればどう対処すればいいのだろう。

「彼が不死身なのには何か秘密があるはず。それを突きとめて」
「……わかった」
 グランゼルは皆を連れて脱出することを決断した。それが最良だと判断したからだ。しかし、それはみちるをここに置いていくことになる。グランゼルは拳を強く握りしめた。みちるを守れる男になれなかった悔しさに震えているのだ。

「皆、脱出だ!」
 仲間を一人見捨てる事に後ろ髪を引かれる思いだが、彼女の決意に答えるにはここは逃げて捲土重来を期すのが最善だ。仲間たちを逃がすとグランゼルもその後を追いかけた。

「無駄な事を…たとえこの場は切り抜けられてもどこまでも追いかけて殺すというのに」
「それはどうかしら?私は信じている。いつか、この世界いえこの世界も含めたすべての光の世界に光が戻ることを…そして、あなたもいつか昔の優しかったあなたに戻ってくれることを……」
「……」
「できれば、もう一度昔のあなたと話したかった……」
 みちるが天を仰いで瞳を閉じると、彼女の体は赤い炎に包まれた。ついに限界が来たのだ。

「もう誰も死なせない……」
 それが彼女の最期の言葉だった。みちるの体は炎とともに消えた。だが、まだ結界は持続している。それは死しても尚仲間を助けようという彼女の執念の成せる業か。結界が消えたのはそれからだいぶ時間が経過してからだった。

「逃げた連中の行方はまだつかめないようです」
 ダークナイトは基地にもどって部下からの報告を聞いた。

「捜せ。特にあのグランゼルとかいう新米の狩人は絶対に逃がすな」
「はっ!」
 部下が出ていくと、また別の部下が入ってきた。

「ダークナイト、大帝陛下がお呼びです」
「わかった、ご苦労」
 部下を下がらせるとダークナイトは基地内に設けられている謁見の場に赴いた。謁見と言っても大帝がここにいるわけではなく、モニターでの謁見となる。ダークナイトが部屋に入るとモニターの電源が入って大帝の姿が映し出された。ダークナイトが跪く。

「頭を上げるがよい。わが友よ」
「はっ、我が主」
「今日は貴公に褒美を授けようと思ってな。我らの長年の仇敵である狩人どもをついに根絶やしにしたのだからな」
「いえ、まだ一人残っております」
「未熟な新米が一人いたとして何の脅威がある?心配するな。それよりも貴公の功を賞して貴公に“ダークロード”の称号を授ける」
「はっ、ありがたきしあわせ」
 ダークナイト改めダークロードは再度頭を下げた。

「長年、狩られる立場だった我ら闇に住まう者どもが今度は狩る側に回るか。これほど愉快な事はないわ。はははははっ」
 大帝の高笑いが部屋中に響いた。


 ※本編から15年後の話です。




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