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 ブルーチェリー
涼香の武器。彼女には弓道の経験は無いのに何故か扱えている。矢を弓に番えると視界にレティクルが
表示され、シンボルと重なるとロックオンされる。魔法力が無くても使用可能だが、その時は普通の矢
と威力は変わらない。弓の弦に番えた時に矢筈に魔法力を注入して鏃に蓄積することで威力を発揮する。
弓から放たれたら通常の矢よりも速い速度で飛翔し標的に向かっていく。威力は抜群で、これを直接防
御することはほとんど不可能。
 
 
 レッドマグナム
アスナが使用する38口径のダブルアクション方式の回転式拳銃。銃弾・銃ともに特別製で涼香の弓矢
みたいに通常の武器として使うことはできない。銃のグリップを握ると、そこから魔法力を注入し撃鉄
に伝えられる。そして、トリガーを引くと撃鉄から銃弾の雷管に魔法力が伝わり、それに発射薬が反応
して銃弾が発射される。涼香の弓矢より発射速度が優れるが、1発あたりの威力はかなり劣る。ちなみ
に実包は環境に優しいケースレス弾。
 
 
 グリーンウィップ
サラが使用するムチ。柄から伝わる魔法力で50mまで伸びる。涼香の弓矢やアスナの銃と異なり魔法
力を直接的には攻撃力に転化できないが、ひもの部分に無数の突起物がついたトゲトゲのムチや20万
ボルトの電圧を流すビリビリのムチなどのバリエーションがある。
 
 
 カラドボルグ
ルイが使用する両刃の片手剣。上記の3人と違って彼女は攻撃魔法が使えるので遠戦用の武器に頼る必
要がない。人の手でなく、妖精によって造られているので何らかの特殊機能が付属していると思われる
が、現時点でそれは確認されていない。
 
 
 ゲイボルグ
エリシアが使用するジャベリンの一種。投擲しても勝手に持ち主の下に戻る優れもの。槍としても使え
るので、武器の中では最も使い勝手の良いと言えるだろう。エリシアは他にもフォースを殺害した際に
彼女の装備していたチャクラムを奪って自分の物としている。
 
 
 
 
 
 
 
 

12+1CHAPTER5
「純血の魔導師・後編」

作:大原野山城守武里




 
 一夜明けて、僕は朝から外に出掛けていた。昨日からアスナが不機嫌オーラ全開なので家にはいられないのだ。
しかし、外に出たはいいが何をして時間を潰すか。金の方はたんまりとある。命がけの仕事をしているので給料も
高いのだ。でも・・・・・・。
 
「もう辞めようかな」
 そもそもこの仕事を始めたのは男に戻るためだ。だが、昨日の戦いで僕はそれを諦めるしかないと思うようにな
った。勝てないんだもんなあ。死ぬぐらいなら一生を女のままで暮らす方がマシだ。
 
「しかし、男に戻れなかったらあいつにも一生会えないし」
 これまでは男に戻るまでの辛抱と会うのを我慢していたが、もう戻れないのなら会ってもあいつは僕を桜谷涼香
としか見ない。いやぁ、実は女の子になっちゃったんだよと言われて信じるような馬鹿じゃないしな。預かってい
る子供が実は行方不明の幼馴染だと疑うほどの想像力は持ち合わせてはいないだろう。一緒にいる時はうるさい奴
だなと思っていたが、こうして離れていると寂しいな。今頃、どうしているんだろう。会いに行こうかな?否、会
うても何にもなるまいて。辛くなるだけじゃ。人の運命(さだめ)とは、かくも酷きものであるか。本当にどうし
よう。このまま女の子で生きていくなんてできるのか?想像もつかんな。まあ、嫌な事は忘れて久しぶりに遊ぶか。
その前に朝飯を食べよう。僕は駅前の喫茶店に入った。そこでサンドイッチを頬張っていると、駅の入り口に同級
生の男子が立っているのが見えた。
 
「待ち合わせか?」
 デートかな?全くいい身分だな。えと、名前は確か成績不振の責任を取ってライオンの飼育係を辞任した伊東だ
ったか?あまり喋った記憶は無いから印象も無い。って、あれ?何か忘れているような・・・・・・。何だろう。
 
「・・・・・・・・・・・・」
 思いだせん。まあ、たいしたことは無かろう。向こうは勝手にデートでも何でもして青春を謳歌するがいいさ。
・・・・・・デート?はて、何か気になる・・・・・・。あ、そうだ。僕は伊東にデートに誘われてたんだ。ということは、伊
東は僕を待っていたのか。すっかり忘れてた。どうするか。この喫茶店のドアはちょうど伊東の視線のど真ん中に
ある。迂闊に出れば見つかってしまう危険が高い。ちっ、あいつの話を全然聞いてなくて、うんうん頷いてたらデ
ートの承諾をしていたのだ。確か待ち合わせの時間は15分後か。約束したときのあいつの喜びようから判断して
待ち合わせをすぎてもずっとあそこで待っている気がする。それまで僕はずっとここに居ないといけないのか。諦
めてデートでもしろって?ふっ、冗談はよせ。男とのデートなんて悪夢以外の何物でもない。見つからずに喫茶店
を出る方法は無いか。僕は必死に考えた。トイレの窓から逃げるか?駄目だ。ここのトイレの窓は人が出入りでき
るような大きさではない。じゃあ、どうするの。うーん、通り抜けフープでもあったらなぁ。そんな魔法みたいな
道具・・・・・・。
 
「そうだ僕は魔法が使えるんだ」
 鏡面空間に入れば伊東に見つからずに出られるぞ。こんな簡単な事に気づかないとは。では、さっさと勘定すま
せてトイレで変身するか。僕は伝票を持って立とうとした。そこへ誰かが声をかけてきた。
 
「あれ、桜谷じゃないか?」
 振り向くと、これまた今学期の成績が不振で特急列車研究部部長と現役を引退したメガネがトレードマークの古
田敦が立っていた。
 
「おまえ、伊東とデートだろ? あいつ、駅で待ってるぞ」
 なんでこいつがそんな事知ってるんだ?そうか、伊東が喋ったんだ。ちっ、これで逃げられなくなった。僕は観
念すると伝票を古田に押し付けて喫茶店を出た。まあ、暇つぶしにはなるか。
 
「ごめん、待った?」
 僕が声をかけると伊東は「いま来たところ」と返答した。いま来たのではないと僕は知っていたが、口にするこ
とでもないので黙っておく。
 
「どこ行く?」
 はっきし言って男同士で遊園地に行く趣味は無いぞ。もっとも、向こうからしたら男と女だろうがな。一方が楽
しくて一方がそうじゃないってのは不公平ではなかろうか。
 
「動物園のチケットもらったんだけど行かないか?」
 動物園ねえ。まあ、良いでしょう。ここんとこ普通じゃない動物ばっかり見てたからたまには普通の動物を眺め
て癒されるとしよう。僕たちは動物園に行くことにした。
 動物園に向かう途中、伊東がいろいろと喋っていたが僕は聞いていなかった。動物園に入って動物を見てまわっ
た。
 
「桜谷は動物は何が好き?」
「んー、そだねぇ、牛と羊とカニとサソリとヤギと魚とライオンとシマリス以外は嫌いじゃないな」
「家ではペットとか飼っているの?」
「シマリスと犬かな」
 あとロボットな。
 
「シマリス嫌いなのに?」
「強制的に飼わされてるの」
「あー、俺んとこもそうだよ。親戚に鶏おしつけられてさあ。トキをつくって大変なんだ」
「でも、卵がタダで手に入るんだろ」
「雄鶏だから卵うまねーんだ」
「じゃ、喰っちまえば?」
「誰が解体するんだ?」
 などと、他愛の無い会話をしながら僕たちは動物園を堪能した。キリンとかゾウとかありふれた動物しかいなか
ったがな。まあ、こんなチンケな市立動物園に大スターのパンダさんが来てくれるわけもねぇーし、よくみたらパ
ンダって時々怖く見えちゃうんだ。僕としてはどちらかと言えばジャイアントよりレッサーの方が好きだ。そのレ
ッサーパンダもこの動物園にはいない。本当、チンケな動物園だぜ。それもしゃーないし、とりあえずひととおり
の動物は見たからここらで休憩するか。その旨を伊東に告げると、僕に休憩所で待ってろと言って売店に向かった。
5分後、伊東が売店からソフトクリームを買って戻ってきた。僕は自分の分の金は出すと言ったが、伊東は受け取
らなかった。借りを作るのが嫌なのに。言っておくが、これぐらいで僕の関心を引けるとは思うなよ。せっかくだ
からソフトクリームは頂戴するがな。僕としては黙ってソフトクリームを食したいところだったんだが、伊東的に
はそうもいかないようで、
 
「なあ、桜谷は休みの日はいつも何してんだ?」
とか聞いてきた。なんでそんな事お前に言わなきゃならないんだ、と心の中で呟きつつ僕は単語で答えた。
 
「アルバイト」
「何のアルバイト?」
 僕は答えなかった。伊東は何か共通の話はないか思案しているようだが、普段ほとんど会話を交わさない間柄な
ので共通の話題など見つからないだろう。そう言えば、女になる前は男とも喋っていたのに今は男とも女ともあま
り喋らないな。僕はふと気になったので聞いてみた。
 
「今日はなんで僕を誘ったんだ?」
「えっ?」
 予期せぬ質問だったのか伊東は返事に窮した。
 
「なんでって、ええ、まあそのぉ、んとだなぁ・・・・・・。何と言うか、男が女をデートに誘うって理由は一つしかな
いだろ」
 んなこたぁわかってる。聞きたいのは僕がそのなんだ、デートに誘いたいと思うような奴なのかだ。
 
「おまえ、知らないの?」
 何をだ。
 
「結構、人気あるんだぜ。可愛いし、スタイルも並以上だからな。彼女にしたいって思っている奴は一杯いるぞ」
 これは光栄に思うべきだろうか。しかし、人気があるという割にはデートに誘われたのは伊東が初めてだ。
 
「それはおまえが近づきにくいオーラを出していたからさ。何かこう話しかけてくるなってみたいな」
 それは誤解だ。僕は自分から話しかけることはないが、他人から話しかけられるのを嫌悪していない。まあ、あ
まり構って欲しくないはないとは思っていたが。自分が男子の間で人気があるというのは知っていたが、僕として
はそれは嬉しくもないことだ。ましてやデートに誘われるなど唾棄するに等しい。こいつとの話もちゃんと聞いて
たらデートなど即座に断っていた。僕は意識の上ではまだ男であり、男と恋愛関係になる余地を全く残していない。
 
「もしそうだったとしたら君はなんで僕に話しかけたんだ?」
「え、だからデートに誘いたいからって・・・・・・。まあ、つまりは俺と付き合って欲しいってことだ」
 ・・・・・・。しばしの沈黙が流れた。いきなりの告白だ。伊東も言っちゃったみたいな顔をしている。無論、僕の返
答は決まっている。
 
「悪いけど君の気持ちは受け入れられないな。別に君のことが嫌いだからじゃない。僕は誰とも関りをもちたくな
いんだ。少なくとも今は」
 伊東が落胆するのが見てわかる。でも、まだ諦めきれないようだ。
 
「今はってことは、時期が許せば付き合っても良いってことだろ?」
 どう返答すべきか。ここははっきり言ってやった方がいいか。
 
「僕が君と付き合う気になった時は僕の運命が最悪のパターンになった時だ。詳しくは聞かないでくれ。言っても
君は信じないだろう」
「そんなの言ってみないとわからないだろ」
「じゃ、言うよ。実は僕は悪の組織によって改造人間にされてしまったんだ。そして、日夜怪人たちと戦っている。
どう、信じる? ふざけてなんかいないよ。これは例えの話で実際はちょっと違うけどね」
 どうだ?信じるか?普通の神経なら信じねーだろ。伊東もすぐには信じなかった。
 
「何か証拠とかある?」
「証拠?」
 そう来たか。証拠ならある。左腕のデバイスアームを見せたら一発で信じるだろう。しかし、彼を信じさせるわ
けにはいかない。アスナたちのことも話さなければならなくなるからな。無かったことにしよう。
 
「いや、さっきのは冗談だ。そんなことあるわけないだろ」
 そう、あるわけない。他人にはそれでいい。僕としてはこれで話を終いにしたかったのだが、伊東は僕の顔をジ
ーっと見て、
 
「なら、今は駄目っていう理由は何だ?」
 適当な理由が思い浮かばなかった僕はこう誤魔化した。
 
「秘密。あまり詮索しすぎると嫌われるよ」
 すると伊東はこう苦笑した。
 
「秘密は女を女にする・・・・・・か?」
「茶化すな」
「別に茶化したつもりはない。で、どうなんだ? 俺に可能性はあるのか? たとえ今が駄目でも俺はお前が良い
って言うまで待つ」
 本気か?こいつ。どうやら本気のようだ。困ったね。さて、何と言ったものか。迂闊に嫌と言えばストーカーに
なりかねん。僕は伊東が何で好きになったかを聞いてみることにした。
 
「なんで僕なんだ? クラスメートの誼で忠告してやる。人を見た目だけで判断するのは宜しくないぞ」
 どうせ容姿を見て付き合いたいとか思ったんだろうよ。しかし、伊東は心外だというような顔をして、それを否
定した。
 
「俺は他人を見た目だけで判断して好きになるような浅はかな男じゃない」
 それは悪かったな。
 
「何と言えばいいかわからないが、初めておまえを見たとき体中に電気が走ったような感覚に襲われたんだ。その
時は何かわからなかったが、その後考えてみておまえに一目惚れしたに違いないと思ったんだ。それから、ずっと
おまえを見続けてきたんだ」
 気色悪いことぬかすな。鳥肌が立ってきたじゃないか。
 
「俺は本気なんだ。無論、いますぐ返事をくれとは言わん。お前がその気になるまでいつまでも待つ」
 こいつ、こんな熱い奴だったか?興奮しすぎているらしいな。やばい。何としてでも男に戻らねば。僕は一直線
に浴びせてくる伊東の視線から逸らすように自分の視線を別に移した。そして、
 
「あれ?」
 僕は視線の先に見たことのある人影があるのを認めた。あいつだ。僕は思わず立ち上がった。
 
「ちょっ、ちょっとごめん」
 僕はあわててあいつのあとを追った。追って何するんだ?心の中の冷静な自分がそう囁く。会っても向こうはこ
っちがわからないのに。でも、会いたいんだ。会って話がしたいんだ。だが、僕は信じ難い光景を目にする。どこ
に行くのかなって思ってたら男と待ち合わせしていたのだ。てっきり女の友達と来てたと思いきや男と逢引してや
がったのか。あの浮気女め。僕は手のひらを上にして魔法を唱えた。変身しなくてもできる魔法で付き人ペットを
瞬時に召喚できるのだ。
 
「やあ、どないしはりましたん?」
 現れたシマリスにわかるように僕はあいつの方を指差した。
 
「あれま、あの女子はんはあんさんのタレやった人とちゃいますのん?」
 シマリスは1回あいつを見ている。
 
「なんか男と楽しそうにしてはりますけど、もうあんさんの事忘れはったんやろか?」
 知るか。そんな事を言わせたくて召喚したんじゃない。わかってるだろ。
 
「わかってまんがな。あの二人を別れるように仕向けたら宜しいんやろ?」
 そうだ。そういうの得意だろ? それともう一つ。
 
「何やろか?」
 あの間男野郎に地獄を見したれや。
 
「了解だす」
 シマリスは僕の手の上から飛び降りると、二人の後を追いかけていった。僕はそれを見届けた後、伊東のところ
に戻った。
 
「どうしたんだ?いきなり飛び出して行って」
 伊東が心配そうに尋ねる。
 
「別に。そんなことより他のとこ行こ」
 僕は伊東の腕を引っ張った。
 
「え、お、おい、ちょっと待てよ」
 有無を言わさずに僕は伊東を連れて行った。あの裏切り者め、そっちがその気ならこっちだって。浮気には浮気
で仕返ししてやる。後にして思えば、この時の僕はどこかおかしかったと思う。あいつが見たとしても、普通にカ
ップルが腕組んで歩いているにしか映らないのに見せびらかすかのように伊東と腕を組んで歩行困難になるんじゃ
ないかってぐらいに寄り添って歩いていたのだ。本当、馬鹿だね。でも、この時は不思議と異性とデートしている
気になってたんだ。
 
 
 
 
 
 伊東とのデートは意外と楽しめた。昼食を取ったり、買い物したり、映画を見たりとそれなりにデートというも
のを満喫した。そして夕方になって僕らは別れた。もうアスナの機嫌も落ち着いているだろう。何か土産でも買っ
て帰るか。と、その前にシマリスはうまくやったかな? 連絡してみよう。僕とシマリスはテレパシーみたいなも
ので会話が出来る。
 
『こちらヘルキャット、ウッドペッカーどうぞ』
 応答が無い。どうしたんだ?
 
『ウッドペッカー、どうした?返事しろ』
 僕は何度も呼びかけたが、シマリスからの応答はなかった。死んだか? 否、死んだなら飼い主である僕に伝わ
るはずだ。ってことは、応答する余裕が無いぐらい忙しいということか。ちょっと気になるな。しかし、捜すとし
てもシマリスからの返答が無いと何処にいるのか。仕方ないので待つとする。僕は喫茶店かなにかを探して、そこ
で待つことにした。えっと、何処か無いかな? しばらく探しているとハンバーガーショップのエムドナルドがあ
った。あそこでいいか。と、決めかけた時だった。僕は誰かに視られている感覚がしたので、辺りを見回してみた。
別に怪しい人影は無い・・・・・・が。
 
「猫?」
 塀の上に座っている猫。別に猫は珍しくないが、この猫は普通の猫とは違っていた。猫のくせにニヤニヤ笑って
こっちを見てやがる。さっきから僕を見ていたのはこいつか。もしかしたら何か知っているかもしれない。試しに
聞いてみよう。
 
「あの、喋るシマリス知りませんか?」
 なんで猫に敬語かは聞かないでくれ。猫は返事の代わりに口を大きく開けた。その口の中を見て僕は目を疑った。
シマリスが猫の口の中で蹲っていたのだ。ビックリした僕は急いで猫の口からシマリスを取り出して叩き起こした。
 
「いったいどうしたんだ!?」
 まだ意識がはっきりしていないシマリスから僕は衝撃的な事実を告げられた。昨日のヤギが現れてあいつと一緒
にいた男を斬殺したというのだ。それを聞いて僕は頭を鈍器で殴られたような強い衝撃を受けた。なんでヤギがこ
の世界に現れるんだ? そして、なんであいつが殺されなければならないんだ? シマリスもヤギに襲われて必死
に逃げているところを猫に助けられたという。猫はシマリスが自分の口の中から取り出されると、もう用が済んだ
とばかりに尻尾から消えていった。最後にあのニヤニヤ笑いを残して。あの猫はなんだったんだろう。シマリスを
助けたってことは少なくとも敵ではないようだが、いまはそれどころではない。僕はあいつが死んだなんて信じら
れなかった。シマリスから現場を聞き出すと全速力でそこに向かった。15分ほど走ってシマリスに教えられた場
所に着いた僕は目の前の惨状に愕然となった。転がっている死体は二つ。一つは元がなんだったかさえわからぬぐ
らいズタズタに切り裂かれていた。そして、もう一つはあいつだった。あいつの殺され方もかなり惨かったが、顔
は判別できた。女の子になって以来、初めて僕はあいつの顔を真正面から眺めた。以前のあいつは笑ったり、怒っ
たり、拗ねたり、泣いたりといろいろな顔を僕に見せてくれた。しかし、いま目の前にいるあいつはもうそんな顔
はできない。
 
「畜生・・・・・・」
 心の底から怒りが込み上げてくるのがわかった。こうなるのがわかっていたら、あの時にかなり無理してでもヤ
ギを倒しておくべきだった。命惜しさに逃げたことがあいつを死なせる結果となってしまった。僕はあいつの顔に
そっと手を置いた。
 
「絶対、仇をとってやるよ。もしかしたら僕もそっちに行くかもしれないけど、その時はいままでのこと全部話す
よ」
 それで許してもらおうとは思わない。あいつが生き返るわけでもなし。ただ、あいつを殺したペナルティは払わ
すべきだろう。無論、命で。僕はポーチからスティックを取り出した。携帯しやすいように小さくしてある。それ
を元の大きさに戻してスイッチを押す。スティックから光が発せられ僕は魔法少女に変身した。問題はヤギがいま
どこにいるかだ。捜そうにもレーダーは前の戦いで壊されたし、あったとしても奴はレーダーには反応しない。っ
てことは、自分で推理でもして居場所をつかむしかない。思うに奴は鏡面空間では斬る対象がいなくなったから、
新たな獲物をもとめてこっちに来たのではないだろうか。だとすれば、まだこの世界にいるはずだ。奴は自分の力
に絶対の自信があるだろうから犯行の度に鏡面空間に逃げることはしないだろう。そう考えた僕は周辺を捜すこと
にした。この辺は人通りが少ないが皆無ではない。犠牲者は他にもいると考えるのが自然だ。しかも周りに人家は
ないし、そのまた周辺は繁華街になっていて人が悲鳴をあげても気付かれにくい。通り魔をやるのにうってつけの
場所なのだ。まあ、早い話が年頃の娘が来る様なところではないってことだ。ってことは・・・・・・。
 
「僕は危ない場所にいるんじゃ・・・・・・」
 こんなところに屯しているような連中はろくな奴らじゃない。女の子がひとりでいたら襲ってしまうような連中
だろう。男であっても堅気ならいたいと思わない。どうしよう。こんな格好を見られたら完全に変人と思われてし
まう。出直そうか。不意にそんな弱気が頭を過ぎった。いや、いかん。あいつの仇をとるんだ。そうさ、今度は死
ぬ気でやるんだ。少々のことなんてね。いざとなればドサクサにまぎれて口を封じてしまおう。
 
「大丈夫さ。うまくいく」
 そう自分に言い聞かせる。と、そこへ男が息を切らせながら駆け寄ってきた。
 
「た、たた、助けてくれぇーっ!」
 何事かと思ったら、男はヤギに追われていた。男は必死に逃げていたが、ヤギは易々と追いつくと男を一刀両断
にした。豆腐を切るみたいに人間の体を頭から下に斬り裂いたヤギが手ごたえ無さそうな顔をしていたのは僕の気
のせいか。そんなことはどうでもいい。奴を殺す。ただそれだけだ。僕は怒りと憎しみをこめてヤギを指差し言い
放った。
 
「貴様の体毛一本、この世には残さん!」
 他の奴やモンスターを何人殺そうと知ったことではないが、あいつを殺したことだけは絶対に許すわけにはいか
ん。僕には特別な機能はないけど、たとえ刺し違えてでも地獄に叩き落してやる。僕はスティックを弭槍に換えた。
弭槍とは弓の先端に槍の穂先をつけて近接戦闘用の武器としたものだ。あくまでも応急処置的なものだが、遠距離
攻撃が無効とならばこうするしかない。問題は威力がどのくらいかだ。モンスターはたとえ体を傷つけられても、
すぐに治癒してしまうほど回復能力が優れている。そのため僕たちガールズの武器は容易には治癒できぬように特
殊な造りとなっている。この弭槍の穂先も前に機関の本部から送られてきた材料で造ったものだが、それがどのく
らいの攻撃力を秘めているのかは今まで使ってなかったのでわからないのだ。しかし、ヤギと戦うにはこれしかな
い。僕は槍を水平にして構えて腰を低くした。
 
「fast!」
 高速移動の魔法を唱えた僕は猛スピードでヤギに突進した。
 
「くらえ!」
 僕は槍を突き出した。しかし、ヤギは上空に高くジャンプしてかわすと両手を突き出した状態で急降下してきた。
昨日と同じ技だ。だが、僕だってちゃんと対処法は考えてある。危なすぎるし、理論的にも怪しいから使う気はな
かったが、あれに対抗するにはこれしかない。僕は弓を二つに分割してもう片方の弭にも用意していた槍の穂先を
取り付けた。これで二刀流となり、攻撃力は2倍となる。さらに、いつもの2倍のスピードで飛行し、回転速度を
3倍とすれば合計して12倍ものパワーとなるのだ。と、言うのは冗談で回転を3倍にすれば威力も3倍になるわ
けではない。僕の全魔法力を二つの槍に込めて攻撃力を増大させたのだ。
 
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
 僕とヤギは空中で激突した。その瞬間、ものすごい衝撃で僕は気を失った。
 
 
 
 
 
 目が覚めるとヤギはどこにもいなかった。いたのは黒髪の少女だった。黒いローブを身に纏ったその姿はまさに
魔法使いそのものを彷彿とさせた。彼女もガールズか? ヤギがいないということは僕が勝ったのか? でなけれ
ば僕は切り刻まれていた。とにかく、あの娘に聞いてみよう。
 
「すみません。二足歩行のヤギ見ませんでしたか?」
 少女はだまって手のひらの石を見せた。魔宝皇珠の破片だ。
 
「貴女、無茶するわね。私が来るのが遅かったら死んでたわよ」
 少女は呆れた風に言った。僕は聞いてみた。
 
「君がヤギを倒したの?」
 状況からして多分そうだろう。どうやら僕は彼女に助けられたようだ。お礼を言わなければ。
 
「助けてくれてどうもありがとう」
 僕はペコと頭を下げた。何者か知らないけど、恐らくガールズの仲間だろう。何番目だろう。たしか4番目の娘が
来るって聞いてたな。まあ、これで破片は全部回収できたわけだ。一時はどうなるかと思ったけど呆気なかったな。
 
「こんなところでもなんだし、僕の家でも来ないか?他の仲間もいるし、任務が終了したお祝いもしたいしね」
 しかし、少女はこれをきっぱりと断った。
 
「悪いけど、貴女のお誘いは断らせてもらうわ。私はそんなことのために日本に来たんじゃないの」
 じゃ、何しに来たの?少女は僕を指差して、
 
「貴女が持っているジュエルの破片を全部いただくわ」
 僕は耳を疑った。
 
「なんだって? どういうことだ?」
 仲間じゃないのか?しかし、彼女はいかにも魔法少女って格好をしている。
 
「君は何者だ?」
 少女は答えた。
 
「私はルイ・バルト・アランブルック。ヘキサザードの魔導師」
 やっぱり魔法少女じゃないか。でも、M機関の関係者ではないようだ。てか、黒髪の西洋人なんているのか? い
や、そんなことより仲間でなければ彼女の持っている破片も回収しなければ。僕は2本の弭槍を元の弓に戻すと矢を
番えてルイという女の子に向けた。
 
「君がM機関の関係者でなければ、その破片を置いて帰るんだ」
「嫌・・・・・・と言ったら?」
「実力行使も辞さない」
 これは脅しだ。僕だって女の子に矢を放つなんてしたくない。しかし、彼女は黙って僕を見つめているだけだ。
 
「僕は本気だぞ」
 弓を持つ手をぎゅっと握り締める。しばし睨み合いが続いた。
 
「聞こえないのか? 本当に撃つぞ」
 業を煮やした僕は再度警告するが、ルイは矢を向けられているのに全く緊張した様子はなかった。彼女の毅然とい
うか物事に動じないというかそういう態度を見ていると、自分がまるで姫君に刃をむけている逆賊みたいに思えてき
た。
 
「なんか言ったらどうだ」
 うんとかすんとか言ってくれ。間がもたないよ。ようやく彼女は口を開いた。
 
「さっきから気になってたんだけど」
 はい、なんでしょう。
 
「貴女、レディが自分のことを“ボク”だなんて言うもんじゃないわ」
「!」
 僕はカチンときた。
 
「・・・・・・そんなの君には関係ないだろ」
 まるで相手にされてなかった。彼女は自分が矢を向けられているよりも、僕が男言葉を使っているのが気になって
いるようだ。ふざけやがって。しかし、どんなに馬鹿にされても僕には女の子に矢を放つなんてできない。彼女はそ
れを見抜いたのだろうか。完全に行き詰まった。今更、弓を下ろせないし。どうしようか困っていると、突然背後に
気配を感じた。ビクッとなって振り返るとサラとアスナが変身して立っていた。多分、シマリスが知らせたのだろう。
さて、この状況をどう説明しよう。サラとアスナは僕がヤギと戦っているかもとシマリスから聞かされているはずだ
から、変身して昨日の雪辱と意気込んできただろう。それなのに来てみたらヤギはどこにも居なくて、僕が見知らぬ
女の子に矢を向けている。僕は誤解を招く前に必死に状況を説明した。
 
「魔法少女?」
 アスナが怪訝そうな顔で聞いてきた。サラも何か不審を感じているようだ。
 
「どうしたの?」
 何が不審かわからない僕は心配になって聞き返した。
 
「だって、私あの娘見たことないわよ」
 そりゃ、M機関の人間じゃないみたいだからさ。
 
「何言ってんの。組織以外に魔法少女がいるわけないでしょ」
 そんなこと言ったって、あの娘は自分のことをヘキサザードの魔導師って言ったんだぜ。そう言うと、アスナは
ピクッと反応して、
 
「嘘・・・・・・」
 と、呟いた。さっきまでの威勢の良さは消え、緊張した面持ちでルイの方を見やる。いったい、どうしたんだろ
う? しばらくルイをジッと見ていたアスナはブンブンと頭を振った。
 
「そんなことあるわけない」
 なにが? 僕としては当然の質問をしたのだが、アスナにどやされてしまった。
 
「うっさいわね。そんなことよりあの娘が最後の破片を持ってるんでしょ。だったらそれを奪えばいいだけじゃな
い!」
 いつもの威勢の良さが戻ったかと思ったが、何か強がっているようにも見える。
 
「そこのアンタ、どこの誰か知らないけどさっさとその破片を私達に渡して帰りなさい!」
 ルイをビシッと指差して偉そうに指図するアスナ。そんな風に言われてそのとおりにする奴なんかいないよな。
気分を害するだけだ。当然、ルイも拒否する。もっとも、彼女は気分を害した様子はないが。
 
「欲しければ力ずくでどうぞ。もっとも、カテゴリーFの貴女達にそれが出来ればの話だけど」
 その口調からは完全に僕たちを見下しているのがわかる。しかし、カテゴリーFってなんだ? アスナに聞こう
と彼女の方に振り向くと、アスナが憤怒の表情を浮かべていた。やばい、と思ったときにはアスナは銃に手をかけ
ていた。
 
「待て!」
 あわてて制止しようとしたが、すでにアスナはトリガーを引いていた。銃声が轟く。相手は人間だぞ。シールド
を張ろうにももう間に合わない。僕はルイの射殺体を想像したが、実際に見たのは何時の間にか剣を構えているル
イとその剣の刃に当たって真っ二つになった銃弾だった。斬鉄剣か。しかし、魔法少女に剣かよ。言えた立場では
ないが。
 
「無駄なことはやめなさい。貴女たちが束になっても私には敵わない。もう、わかってるんでしょ? 私が何者か」
 言われてアスナが呟く。
 
「純血の魔導師・・・・・・」
 どっかで聞いたような気がするな。で、純血の魔導師ってなんだ?
 
「本物の魔導師ということです」
 サラが教えてくれた。本物って、まるで僕たちがニセモノみたいな言い方じゃないか。サラが言うには僕たちは
アイテムによって変身したり魔法力を駆使したりできるが、それはあくまで外部から後天的に与えられた力にすぎ
ない。純血の魔導師というのは先天的にすでに魔法力を備えている人たちのことらしい。M機関が設立された当初
は機関にも純血の魔導師が数人在籍していたが、時を経るにつれ戦闘で死亡したり年をとって亡くなったりして数
を減らしていった。そして、とうとう一人だけになってしまった。このままではやばいと感じたM機関は、純血の
魔導師ほどの力はないが量産がきく魔法少女を誕生させることにした。これとて、そうそう数が揃えられるもので
はないが、最低限の人数は確保することができた。アスナを激高させたカテゴリーFとは本物の魔導師に到底敵わ
ないガールズに口の悪い連中がつけた蔑称だという。プライドが人一倍高いアスナはそう言われるのが嫌で誰より
も勝負に拘るらしい。戦果をあげることで自分達に対するマイナスの評価を払拭しようと思ったのだろう。だとす
れば、一戦は免れない。本物に勝ったとすれば“FAKE=偽者”というレッテルは剥がれる。得体の知れない奴
に魔宝皇珠の破片を渡すわけにもいかんからな。僕としてはあいつの仇を討ってくれた人と戦いたくはないのだが
な。しかし、そうも言ってられない。が、ここでやりあうのはまずい。僕は皆に鏡面空間で戦うことを提案して了
承された。
 
 
 
 
 
 
 鏡面空間に着くやルイは自分の足下に六芒星の模様が描かれた魔法陣みたいなのを発生させて宙に浮かんだ。あ
れはなんだ? と聞く前にサラが教えてくれた。
 
「あれは魔力フィールドといって、術者の魔法力を高めてくれるんです」
 そういうのができるのも本物の魔法使いだからなんだろうな、とか思いながら空を見上げているとルイがこっち
を指差しながら魔法を唱えていた。
 
「Fire!」
 彼女の指先の周りから光が発生したかと思うと、それが火の玉となって僕らに向かってきた。
 
「やばい!」
 僕らはあわてて空に逃げた。火の玉の何発かは倉庫にあたってボヤを起こしている。それに気をとられていると
サラが叫んだ。
 
「涼香ちゃん、前!」
「えっ?」
 すぐに前に目を向けると、目の前にまでルイが迫っていた。剣を僕に振り下ろそうとしているのが見えた。僕は
咄嗟に弓で剣を受け止めた。が、なんとか助かったと一安心する間もなくルイの蹴りが腹に喰いこんだ。
 
「うげっ」
 あまりの苦しみに耐え切れず嘔吐してしまった。そのすぐ後に今度は首の後ろに衝撃を感じて僕は真っ逆さまに
墜落した。落ちた場所も悪く、塀の上に右腕を下敷きにして落ちてしまった。衝撃で塀の一部は壊れて僕は気を失
った。今日はよく気絶するな。
 どのくらい気絶していただろう。気がついた僕は体を起こそうとしたが右腕に激痛が走った。どうやら落下の衝
撃で痛めたらしい。右腕を押さえながら立ち上がって空を見上げると、サラの姿がなかった。彼女もやられたのだ
ろうか。アスナはまだ残っていたが傷だらけだ。援護しなければと弓を拾おうとしたが、右腕がこれでは矢は射て
ない。そこで、ふと前にシマリスに教えてもらったことを思い出した。僕が使っているこの弓はパワーアップする
らしいのだ。まだ僕は力量不足なのでしない方がいいとの事だが、パワーアップさせる魔法は聞いている。いちか
ばちかやってみるか。僕は弓に手を置いて魔法を唱えた。
 
「Bluechery, version up」
 パァーッと弓全体が光り形をクロスボウへと変えていった。僕はそれを手にしようとした。だが、
 
「お、重い・・・・・・」
 すでに矢が装填されていたから片手でも射てんこともないが、こうも重くては狙いが付けられない。それでもロ
ックオン機能があるため、ブレてても矢は照準された目標へと飛んでいく。僕はルイをロックオンするとトリガー
を引いた。
 
「StarLightThunderbolt!」
 ものすごい勢いで矢が射出され、その反動で僕は後ろに倒れた。矢は通常の倍のスピードで飛んでいきルイを捉
えた。ルイも矢に気づいたが、今からではよけらないだろう。防御するしかない。
 
「Protection!」
 ルイは右手に剣を持っているので左手でシールドを張って防御しようとした。僕は心の中でシールドを貫けと祈
った。この一発を放っただけで僕は立っているのもやっとなぐらいに魔法力を消耗して体力まで奪われていたので、
これ以上の戦闘は不可能だったからだ。
 
(頼む・・・・・・)
 祈りが通じたのか矢はシールドに接触すると激しい火花を散らして鬩ぎあったが、すぐにシールドを破ってルイ
の掌から肩までを貫通した。無論、言うまでもなく彼女の左腕は完全に吹き飛んでいる。
 
「うわああああ!」
 悲鳴をあげながらルイは真っ逆さまに落ちて地面に激突した。急いで駆け寄ってみると、高いところから落ちた
にも関らず彼女はすでに立ち上がっていて左肩を抑えながらこっちを睨みすえていた。
 
「まさか、私のシールドを破るなんて・・・・・・。貴女、本当に人間なの?」
 その台詞にドキリとしたが、話を誤魔化すためにもう退くように勧めた。
 
「今日はもう退くんだ。それじゃあ戦えないだろ」
 戦えないのは御互い様だが。しかし、状況はこちらに有利だ。ルイは体は頑丈そうだが、さすがに左肩からの出
血はひどいようで目が虚ろになりかけている。どうやら彼女は攻撃に特化しすぎていて回復や治療に魔法力を回せ
ないようだ。無謀だ。せめて出血を止めるぐらいは考えるべきだ。
 
「貴女の言うとおりね。でも、覚えていて。貴女の正体がエグゼクティブモンスターだったとしても、絶対に貴女
を殺してでもジュエルをもらうから」
 モ、モンスター?いくらなんでもそりは失礼だろ。僕はそう抗議しようと口を開きかけたが、ルイは言いたいこ
とを言うとさっさと姿を消した。彼女の方に無意識に差し出した左手を空しく見つめながら僕は自嘲気味に呟いた。
 
「僕は人間さ。ちょっと皆とは違うけど」
 鏡面空間はさっきまでの騒々しさが嘘のように何時もの静けさを取り戻していた。
 
 
 
 
 
 
 どうにかこうにか本物の魔法使いを退けた僕とアスナは気絶していたサラを救出して家にもどった。皆、疲労困
憊のうえにキズだらけで歩くのもやっとだったが、騒ぎになるためタクシーにも乗るわけにもいかず這うようにし
て帰った。一番の重傷である僕は魔法でキズが癒えたサラ(彼女は打撲や切り傷などの軽傷なら魔法で治療できる)
に骨折の手当てをしてもらった。
 
「私にもっと力があれば涼香ちゃんの怪我も治せるんですが・・・・・・」
 申し訳なさそうに言うサラだが、その気持ちだけで僕は満足だった。前みたいに腕がなくならないだけラッキー
だよ。
 
「今日はもう休んでください。だいぶ疲れたでしょう」
 そうなのだ。いつもの倍以上は疲れている。これも武器をパワーアップさせたからか。
 
「あまり無茶はしないでくださいね。下手すれば命に関わることもあるんですから」
「ごめん・・・・・・。これからは気をつけるよ」
 真剣に他人のことを気遣えるサラには本当頭が下がる思いだ。僕はサラに礼を言うと、自分の部屋に戻ろうと立
ち上がってリビングを出ようとした。こんなに疲れたのは初めてだ。寝るにはまだ早い時間だが、誰にも文句は言
わせんぞ。
 
「おやすみ」
 僕はそう言ってリビングを出た。もう今日は厄介ごとは起こらないだろう。ジュエルモンスターは全滅したし、
ルイもしばらくは動けないはずだ。厄介ごとが起こる要因は皆無だ。そう思っていたが、一本の電話が現実は厳し
いと知らせてくれた。アスナが電話の近くにいたが、ソファーに顔を埋めて動こうとしない。
 
「電話出ろよ」
 だが、アスナは顔を上げずにこう返した。
 
「あんたの彼氏じゃないの? あんたが出なさいよ」
 彼氏?何、気持ち悪いこと言ってんだよ。
 
「だって、あんたその彼氏と今日デートしてたんでしょ? 電話かかってたわよ。まだ帰ってないって言ったらち
ょっと心配してたみたいだけど」
 伊東だ。すっかり忘れてた。どうする?出た方が良いか?迷っていたらサラが電話に出てくれた。伊東だったら
僕はもう寝たと伝えてくれ。だが、サラの様子から伊東ではないようだ。安心して部屋に行こうとすると、突然サ
ラが大声をあげた。
 
「えっ!?」
 驚いてリビングを覗いてみると、サラが電話を持ったまま立ち尽くしていた。
 
「どした?」
 と聞くと、サラは青ざめた表情で予期せぬ事態が起きたことを口にした。
 
「本部が・・・・・・、全滅したって」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

さ〜て、次回のスズカさんは〜? サラちゃんですぅ。今年もようやく寒くなってきましたね。地球温暖化が目に見えるようでちょっぴり不安です。 何年後かしたら雪だるまも作れなくなっちゃうんですかね。 さて次回は、 「スズカ、魚釣りに行く」 「アスナ、エピソードゼロ」 「サラちゃん、私を温泉に連れてって」 の三本ですぅ。 次回もまたみてくださいね〜


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